銀座のホステスには、秘密がある
「おまえに会いたくてな、すぐに東京に戻って来てしまった。弱いな、俺。はは…」

やけに明るい殿。
まるで接待の時のように無理に盛り上げようとしてる。

「どうしたの?戻って来て大丈夫なの?」
「いやぁ。あんまり良くはないやろうな」
「まだ追われてるの?」
「そんな犯罪者扱いするなよ」
「殿!心配してるのに……」

なのに、殿は逆に楽しそうに笑う。
分からない。
身に覚えのないスキャンダルで仕事できなくなったって言うのに、どうして笑っていられるの?

「サラ。旅に出よう」
「旅?」

たぶんアタシの眉間には思いっきりシワが寄ってると思う。

「そう。どこか遠くに。誰も俺たちの事知ってる人がいないところに」
「これから?」
「もちろん。すぐに」

やっぱり殿の考えてることは分からない。

「ほら行くぞ」と殿がいきなり手を引く。

「ちょっと待って。本当に今から行くの?」
「そう言ってるだろ」
「待って、荷物は?」
「そんなの現地で買えばいいだろ。急がないと新幹線の時間に間に合わないぞ」

え?
えぇ?

「新幹線?」
「そう、旅と言えば列車に決まってるだろ。急げよ、サラ」

急かす殿に逆らえず言われるがまま旅に出ることにした。

でも……
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