銀座のホステスには、秘密がある
「あぁあ。サラがモタモタするから新幹線なくなったやん」

二人で東京駅に着いた頃には、もう新幹線の本数も少なくなってた。

「大阪までなら行けるみたいだけど……」
「大阪なんて近すぎ」

どこに行こうとしてたんだろう。
殿は目的地を決めてるみたいだけど、アタシにはまだ教えてくれないらしい。

「なんでそんな荷物多いの?」

改めて殿がアタシを見てる。
バッグ一つの殿に比べて、アタシはスーツケースと大きめのバッグ。

「だって、いろいろ持ってくのがあるから」
「おまえ化粧品だけで、どんだけ入れてんだよ」
「必要最小限しか持ってきてないわよ」
「パックも必要最小限なんか?」
「パックしなかったら次の日の化粧のノリが……」
「はいはい。分かった。取り敢えず部屋探そうか」

アタシの言葉の途中で殿はもう歩き始めた。

だから行き当たりばったりなんて無理なのよ。
きちんと計画して、調べて、準備してからじゃないとこうやって大変な目に会うんだから……

東京駅付近のホテルは今日は多いらしくて、取れた部屋はシングルが二つ。

別に期待していた訳じゃないけど、久しぶりに殿に会えたのに、別々の部屋は寂しいって思う。

なのに、少しだけ一緒に飲んだ後に「明日は朝早いから、サラも早く寝ろよ」って言い残して、殿はさっさと自分の部屋に戻っていった。

世の中的にはこの時間は深夜かもしれないけど、アタシたちにしてみればまだまだ仕事中、到底眠たくなる時間じゃない。

一人虚しく部屋でワインを開けた。
ハーフボトルの白ワイン。
アタシが好きな銘柄がたまたまホテルの売店に置いてあった。

この味は変わらない。
アタシが銀座にいた頃と同じ味。
< 213 / 222 >

この作品をシェア

pagetop