銀座のホステスには、秘密がある
翌朝早く殿が起こしに来た。

「良く寝たか?ほら、行くぞ」
アタシの中ではまだまだ深夜のこの時間。
殿のテンションについていけない。

「取り敢えず新幹線に乗ったら寝ていいからな」

無理やりって感じで新幹線乗り場まで連れて行かれ、そこにやってきた乗り物に押し込まれた。

すぐに寝てやるって思ってたのに、
「意外と楽しいね」
車窓の景色がどんどん後ろに行くのが面白い。

「社内販売早く来ないかなぁ」
殿は外の景色より、食い気らしい。

しばらくしてやってきた社内販売で朝食代わりのお弁当を買った殿。
そして次にやってきた社内販売でコーヒーとおつまみを買って、また次にやってきたのではアイスを買っていた。
社内販売を満喫してる。
アタシはまだお弁当も食べ終わってないのに、隣では殿がアイスを食べている。

「サラの分は次で買ったるからな」
「いいよ。そんなに食べられないって」
「いや、食え。そんなに痩せたら病気になるぞ」

まるでお父さんみたいな殿に見張られ、お弁当も半分以上食べた。

「おまえ、食ってなかったやろ?」

それ以外、殿はアタシが引きこもっていた時期について聞いてくることはなかった。

誰にも会わず、誰とも連絡取らないで過ごしたこの数日、食欲なんてなかった。
まだまだ外に出るのは怖かったのに……

「どこに行くの?」
「ん?着いたら起こしてやるから、少し寝てろ」

お腹もいっぱいだし、穏やかな殿の声に気持ちがよくなり、列車の揺れに身を任すとすぐに眠りに落ちた。
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