銀座のホステスには、秘密がある
「サラ。おまえとここに登りたかったんだよ」

見上げたアタシの目の前には黒塗りのお城。

「熊本城?」
「そうだ。ここは加藤清正公が築城して、約400年が……」
殿の歴史好きが顔を出す。
このウンチクを聞くのも久しぶり。

アタシと来たかったって言うより、熊本城が見たかったんじゃないかってくらい、お城について詳しく語り始めた殿。

「だけど、細川が入ったんでしょ?」
「よく知ってるなサラ。よし入ってみるか」

長時間の移動も全く気にすることもなく、殿が中へと歩いて行く。
その背中を小走りで追った。

広い。
一口に熊本城なんて言っても、お城にまつわるいろいろな建物が周りにあって、天守閣までたどり着くのはもうしばらく時間がかかりそう。

あちらこちらと曲がっては立ち止まって、歴史の重みが……なんて感動している殿。
でも、緑がいっぱいのこの場所を殿と散歩しているんだと思えば、幸福感が胸いっぱいに広がる。

そうしてやっと天守閣までたどり着いた頃にはもう夕方になっていた。

木々の匂いや、自然の風を感じながら、眼下に熊本の街を見る。

「ええやろ」
隣りには愛する人がいて、

「うん、素敵だね」
傾く夕陽に自然の雄大さを感じていた。

「サラ。俺とこの街に住むか?」
「え?」
「誰も俺たちのことを知らないここで、二人で全く新しい生活を初めてみるか?」

殿と目が合う。

優しい瞳でアタシを見てる殿。

本気?
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