銀座のホステスには、秘密がある
「この街で、俺が働いて、サラが食事を作って俺の帰りを待っているなんてどうだ?」

「名案だろ」って言いながら熊本の街へと視線を移す殿。

それは殿と結婚できないアタシにとって最上級の幸せだと思うけど、
「本気で言ってるの?」
素直に信じることができない。

「……」
「……」

黙り込んだ殿にアタシも何も言えなかった。

「サラ。俺は、おまえを家に閉じ込めておきたいって思うことがある。おまえが他の男に笑いかけるのを黙って見ていられるほど、俺は寛大じゃない」
「殿……」

アタシの少し伸びた髪が風に揺れる。

「だけどな、俺はそんな女に惚れたんやから、これはしょうがないと諦めるしかない」
「でも、アタシはもうその仕事を続けられないの」
「それでいいのか?」
「…いいも何も、だってアタシは男だから……」
「サラは最高の女だ。それを認めてないのはおまえ自身じゃないのか?」

「……」

「仕事を続けられないと言いながら、化粧道具があんなに必要か?食事制限するか?歩き過ぎたと言って足のマッサージをするか?全部サラであり続けるためだろ?」

殿の言葉が胸に刺さって痛い。

「殿……」

「アキラは好きなことやれよ。俺はそんなおまえの横にいたい」

ツーっと左の頬に涙が流れた。

アタシが一番気にしてたのかもしれない。

「殿……」

「そしていつまでも俺の横にいてくれ」

その瞬間、アタシは殿の胸に飛び込んでいた。
他の人の視線があっても構わなかった。
ただ殿が愛しかった。
殿はそんなアタシの頭をなでていた。


その日、アタシたちは同じ部屋に泊まって、同じ布団で寝た。
そしてアタシは、本当の姿を殿に見せることができた。

今はもう何も秘密なんてない。
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