銀座のホステスには、秘密がある
聞いてたよ。
だって、あの頃は女じゃなかったもん。
自分の気持ちと体に違和感があって、いつも苦しかった。
やりたくないことをずっとやらされてるようで、ずっと辛かった。

だけど、親友がいたから、あいつの傍にいられるなら、自分を偽っててもいいと思っていた。

そしてあの夜、『常なるものはない』という言葉に踊らされるように、焦り、勘違いし、充伸に告白した。

全てが壊れたあと、何も残ってはいなかった。
偽って生きてきた分、楽しい思い出も、未来への希望も、何も。

「いやー。あれは、何年前だ?俺がラジオ局のディレクターやってた時代だから……」

毘沙門天先生。
あなたのせいで、アタシは一番大事な人を失いました。

「失礼。名前は?」
「サラでございます」
「嬉しいよ、サラ。あの時のリスナーに会えるなんて」

シャンパングラスで乾杯をすると、カツンと良い響きが二人を包んだ。

「どうしてそんな寂しそうな顔で笑うんだ?」
「ちょっと昔を思い出してしまって」

無理に作った笑顔。
目じりから熱いものが零れそう。

「サラ。我慢はよくない。泣きたい時には思いっきり泣きなさい。さぁ、この胸においで」

目の前で両手を広げた毘沙門天先生。
え?と思っていたら、
「いやーん。ありがとう」
クラブ龍太郎のキャリーちゃんがその胸に飛び込んでいった。

ドッと盛り上がったその行動に合わせて笑った。
上手く笑えているだろうか?

話が違う方に向かうと、一人静かに席を立った。
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