銀座のホステスには、秘密がある
「また来て頂戴ね~」

長い一日だった。
クラブ龍太郎を出る頃には、既に3時は過ぎていて、さすがに足にくる。

「じゃ、今度面接にいらっしゃい」
あかねママの声。
声の方を見ると、ママが彩乃さんに近づいてそう言っている。

良かった。
彩乃さん移店できるかもしれない。


「サラちゃん。お疲れ様」
「龍太郎ママ。お世話になりました」
「憎たらしいくらい、いつ見ても綺麗ね」
「ぅふふ。ありがとうございます」
「だけど、偽って生きてて、辛くない?」

え?

偽ってなんかいない。
偽っていたのは高校生の頃まで。

「自分をさらけ出せないって辛いでしょ?」
「龍太郎ママ?」
「いいのよ。私には分かっちゃったから」
「分かったって。何が?」
「サラ……」

龍太郎ママはそっとアタシの肩に手を添えると、

「いつでも、うちのお店にいらっしゃい」

耳元でこっそり囁いた。

え?

だってここはニューハーフしかいないクラブ。
アタシは女だから、この店には……

もしかして……

「そんな目で見ないで。誰にも言わないわよ」

何を?
何が分かったって言うの?
アタシが女じゃないって龍太郎ママは知らないはず。

「な……だれが……」
もしかしてあかねママが話した?

「分かるわよ~。あんた、あたしを誰だと思ってるの?」

龍太郎ママは固まってるアタシにそう言うと、前を歩く集団に合流した。

バレたんだ。

アタシが女じゃないって……

どうして分かったんだろう。
もしかして、何か足りてなかったとか?
もしかして歩き方が違ってたとか?
気を抜いた瞬間があったとか?

龍太郎ママに知られてしまった。

うちのお店でもママとローラママしかこの事知らないのに……

明日からは、細心の注意を払ってオンナにならなきゃ……

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