銀座のホステスには、秘密がある
「そろそろ集まってる?」
出勤前のケンジさんのお店。
樹里がみんなを集めながら人数を数えてる。

「サラ。今日はとびきり美女に仕上げたからね」

ケンジさんが扉のとこまでついてきて、乱れた髪の毛を細かく整えてる。
今日のアタシはバイオレッド色のミニのドレス。
ネイルもドレスに合わせてやってもらった。

「ゴンちゃんまだ?」

いつごろ始まったか覚えてないけど、
ケンジさんのお店で一緒になったアタシたちが、集団で着飾ってお店まで歩いた。
それから敢えて同じ時間に合わせるようになって、
今ではお店のボーイチーフのゴンちゃんまで巻き込んでの、一大イベント。

「皆さん。ゴンちゃん来ました」
「戸塚君も一緒だ」

黒服のゴンちゃんがケンジさんのお店の前で待っている。
絶対に他の店の中には入らないらしい。

「ケンジさん。ありがとう。行ってきます」
「素敵だよ。サラ」
口元を緩めたケンジさんが、アタシの肩に真っ白いケープを掛けてくれた。

ゴンちゃん達に荷物を預けると、
「さぁ、みんな行くわよ」
樹里が出発の合図を出した。

着飾ったホステスが総勢10数名で銀座の街を歩く。
アスファルトやオフィスビルの灰色の中を、赤や黄色、ピンクや青色と色とりどりのアタシたちが歩くと、そこだけ異次元のように見えるらしい。
不定期に行うそれは、周りの人から『花魁道中(おいらんどうちゅう)』と呼ばれるようになった。

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