銀座のホステスには、秘密がある
「じゃ、行ってきます」
「あら?同伴?」
「そう」

花魁道中を終えてお店に戻ると、すぐに出かける用意をしてまたお店を出た。

お得意様と待合わせをして一緒に出勤することを同伴と言う。
同伴が多い程、売り上げにも繋がるから、同伴する毎にお給料も上乗せしてくれたりする。
他の店ではノルマもあるらしいけど、うちのお店にそう言ったものはない。
『いらっしゃったお客様は全員でもてなす』
そうママに教えられている。

「こんばんは」
「くーさん。お疲れ様でした」

『待ち合わせの時間より10分前にはその場所に行ってなさい』
これは……ローラママの言葉だったかな。

くーさんはアタシのお父さんよりも年上の方。
おじいちゃんよりは年下だと思う。

「サラに会えると思うと仕事ほっぽって来ちゃった」
「ぅふふ。皆さんお困りですよ」

くーさんと同伴するときはいつもお寿司屋さんへ寄ってからお店に行く。
会社経営のくーさんが行くのは回らないお寿司屋さん。

「久原様いらっしゃいませ。今日もサラちゃんを独り占めですか?」
「そうだよ大将。サラの好きなこぶ締めあるかい?」
「もちろんですよ。私もサラちゃんが来るのが楽しみですからね」

くーさんのおかげでお寿司についても詳しくなった。

「今日は若いのが多いね」

店内を見渡すとアタシとそう歳が変わらない方たちがいる。
これまではここで若い人を見かけることはなかった。
アタシみたいに連れてきてもらってる人はいたけど。

「IT企業って奴ですよ。最近はそういうお客様が増えました」

普段は他のお客様のことなんて言わない大将が、珍しい。

「そうか。私は今一そのIT企業ってのがよく分からないんだ。時代に置いていかれたかな」
そう言ったくーさんの顔が寂しげで、
「くーさん。そんな時代ばかりじゃないですよ。ちゃんとくーさんについてきてる時代だってあります」
そっと寄り添った。

「そうか?ありがとうなサラ」
「アタシこそ。いつも美味しいお寿司をありがとうございます」
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