銀座のホステスには、秘密がある
「俺な。本当は誰かと歴史を熱く語ってみたいんだけど、その話すると飽きて話を変えられるパターンが多いんだよ。はいはいみたいな、軽くあしらわれちゃうんだよな」
龍太郎ママが離れると、一瞬だけ二人になった。
殿は猫背で出されたミックスナッツのカシューナッツだけを選んで食べてる。
「アタシは殿の話聞いてるの好きですよ」
「ええよ。無理せんで」
「本当ですよ。だんだん歴史に興味が湧いてきました」
「ほんまかぁ?そうやったな。サラは俺の生徒やったな」
「そうですよ。毘沙門天先生」
顔を上げてアタシの方を見て笑う殿が可愛らしかった。
「サラ。本名はなんて言うんだ?」
「本名?細川……です」
「細川?熊本の出か?」
「いえ。出身は埼玉です」
「そうかぁ。細川か……」
ドキドキと胸がうるさい。
下の名前を聞かれたらどうしよう。
アキラ
女の子でもあり得ない名前じゃないけど、できるなら疑いすら持たれたくない。
嘘をつく?
本名の偽名?
あぁ、よくわからなくなってきた。
「なら、おまえはガラシャだな」
「は?」
「細川ガラシャ。ガラシャもまた美しかったらしいぞ」
「へ、へぇ」
「明智光秀の娘でな。本能寺の変の後……」
歴史?
殿は一人で話している。
気付かれないように肩の力を抜いた。
それ以上聞かれなくて良かった。
最初から名字しか興味なかったんじゃないかってくらい、細川ガラシャさんについて語りだしてる殿。
ミックスナッツも忘れてる。
「でな、ガラシャの侍女が……」
カシューナッツを選り分けて手のひらに乗せて差し出すと、
話に夢中になってた殿が口を開けた。
一つ摘んでその口に入れる。
唇に親指が微かに触れた。
「そこからがガラシャの……」
殿は話しに夢中でそんなことどうでもいいみたい。
さっきとは違うドキドキがアタシの中に生まれた。
そんな訳ない。
これは何かのまちがいよ。
笑顔がぎこちなくなってないだろうか。
殿の唇に触れた親指を、反対の手でしっかり握った。
龍太郎ママが離れると、一瞬だけ二人になった。
殿は猫背で出されたミックスナッツのカシューナッツだけを選んで食べてる。
「アタシは殿の話聞いてるの好きですよ」
「ええよ。無理せんで」
「本当ですよ。だんだん歴史に興味が湧いてきました」
「ほんまかぁ?そうやったな。サラは俺の生徒やったな」
「そうですよ。毘沙門天先生」
顔を上げてアタシの方を見て笑う殿が可愛らしかった。
「サラ。本名はなんて言うんだ?」
「本名?細川……です」
「細川?熊本の出か?」
「いえ。出身は埼玉です」
「そうかぁ。細川か……」
ドキドキと胸がうるさい。
下の名前を聞かれたらどうしよう。
アキラ
女の子でもあり得ない名前じゃないけど、できるなら疑いすら持たれたくない。
嘘をつく?
本名の偽名?
あぁ、よくわからなくなってきた。
「なら、おまえはガラシャだな」
「は?」
「細川ガラシャ。ガラシャもまた美しかったらしいぞ」
「へ、へぇ」
「明智光秀の娘でな。本能寺の変の後……」
歴史?
殿は一人で話している。
気付かれないように肩の力を抜いた。
それ以上聞かれなくて良かった。
最初から名字しか興味なかったんじゃないかってくらい、細川ガラシャさんについて語りだしてる殿。
ミックスナッツも忘れてる。
「でな、ガラシャの侍女が……」
カシューナッツを選り分けて手のひらに乗せて差し出すと、
話に夢中になってた殿が口を開けた。
一つ摘んでその口に入れる。
唇に親指が微かに触れた。
「そこからがガラシャの……」
殿は話しに夢中でそんなことどうでもいいみたい。
さっきとは違うドキドキがアタシの中に生まれた。
そんな訳ない。
これは何かのまちがいよ。
笑顔がぎこちなくなってないだろうか。
殿の唇に触れた親指を、反対の手でしっかり握った。