銀座のホステスには、秘密がある
『じゃ、今日は歴史のお勉強といこうか』

俺はベッドから下りた。
なるべく充伸の方を見ないようにしながら。

充伸はまったく気にしてないって様子で携帯を触りだした。

もしかして、おまえも意識してるのか?

『今日の先生は、うちのディレクターでもある上杉君。あだ名は毘沙門天(びしゃもんてん)」

ラジオは時々こうやって受験生寄りの勉強を教えてくれた。
もし親に「ラジオなんて聞かないで勉強しなさい」って言われても、「このラジオは勉強のためです」って言い訳を与えてくれるからだと思っている。

『はい。こんばんは。上杉だから毘沙門天って安易。すごく安易なネーミングでどうかと思う。んだけど、今夜は毘沙門天の如く熱く語っていくからよろしく』
『毘沙門天先生!くどい。顔もだけど、しゃべりがくどいの』
『そう?くどい?じゃ、くどーくいこうかな。今日は壇ノ浦の戦いーーー』
『あー。なんとなく聞いたことある』

ラジオの中の兄さん達も楽しそう。
充伸は未だ上半身裸で、窓に寄りかかり漫画を読んでいる。

高校生になった頃から、筋肉の付き方が変わってきた。
男らしくなったというか、筋肉が盛り上がってきたというか。

たぶん充伸は鍛えてるんだろうな。

筋肉を見てたら充伸が不意に顔を上げた。

「何?」
「いや。なんでもない」
「なんだよ」
「……おまえ、その……鍛えてんのか?」
「あぁ。これ?」
上腕二頭筋を俺に見せつけてくる。

「腹も割れてるぞ」
そう言って腹に力を入れて、少し線が入った腹筋を見せつけてくる。

「へ、へー」
目のやり場に困るだろ!

「晶もやれよ。おまえもすぐに筋肉つくって俺が教えてやるよ」

やめろ!
俺に触るな!分かってやってんのか?おまえ今上半身裸だそ?



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