銀座のホステスには、秘密がある
「どうしたの?」
「……」
「ただ笑って座ってるだけなら新人と同じよ」
「……」
「もっとプロとしての自覚を持ちなさい」
「……すみません」

バックに下がった途端、ママの顔が変わった。

「何か悩み事でもあるの?」
「……いえ」
「最近のあなたはとっても良かったのに、今日はおかしいわよ」
「……」
「あのね、サラ。あなたはみんなのお手本なのよ。みんながあなたみたいになりたいって思ってるの。がっかりさせないで頂戴」
「……はい」
「この後は大丈夫?ワインは開けられるんでしょう?」
「はい。やれます」
「分かったわ。戸塚君、ワインの用意して。ソムリエナイフも忘れないでね」

今日は怒られてばっかりだ。
落ち着こう。

バックルームのメイク室に下がって、鏡の前の丸椅子に座った。
純白のドレスに身を包んだアタシが鏡の中にいる。
このドレスはもう随分前に買ったもの。
当時はお給料も少なかったから、ドレス1着買うのも勇気がいった。
耳に下がってるイヤリングは、辞めていった麗さんに貰った物。

軽くまぶたを閉じて、呼吸を吐き出した。


アタシはサラ。
銀座の老舗モンテカルロの女。

自分に言い聞かせて、瞼を開けた。
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