銀座のホステスには、秘密がある
「お待たせいたしました。こちらフランス、ブルゴーニュ産の白ワインでございます」

ワインボトルを持ったアタシの後ろから、戸塚君がワインクーラーを乗せたワゴンを押してくれてる。
店内のお客様も何が始まるのかって視線を投げてくる。

店内の皆様に一礼して、
「小林様。辛口でよろしかったですか?」
「あ、あぁ。そうだな。つい見惚れてしまったよ」
「ありがとうございます。でも、これからですよ」

アタシは胸元から出したソムリエナイフをカチャカチャと慣れた手つきで構え、
優雅にワインボトルへと伸ばした。
まずはナイフの部分で、ボトルのキャップシールに切れ込みを入れる。

「わぁ」

彩乃さんがアタシの慣れた手つきに驚いている。

初めてこの世界に入ったのは黒服のボーイとしてだった。
なんでも覚えないと気が済まないアタシは、何度もワインやシャンパンの開け方を練習した。
だけど、本当はフロアに出たかった。

毎夜、着飾ってフロアを行き交ってる女の子たち。
羨ましくて、唇を噛んで見てた。
それに気付いたのが先代のママ。
「あきらめなさい」と言われたけど、もう引けないって頼み込んだ。
アタシを女にしてくださいって。

最初は反対されたけど、先代のママはそれから半年間アタシを自宅に住まわせてくれて、話し方、歩き方、礼儀作法に至るまで教えてくれた。
アタシが女になれたのは先代のおかげ。

指先が覚えている。
スクリューをコルクに刺して、端を瓶の口に引っ掛けて、
普通の女の子より力はあるから、
ぎゅ、ぎゅぎゅ……ポン
小気味の良い音を立てて、コルクの栓を抜いた。

たったそれだけのことだったのに、その場にいた人たちが拍手をくれた。
彩乃さんに至っては、「素敵。素敵」と大げさに喜んでいる。

殿も。
何か言いたそうな顔で笑っている。

「さ。小林様。乾杯しましょ?」

アタシは、サラ。
銀座の女。
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