銀座のホステスには、秘密がある
アフタ―で連れてこられたのは、ホテルの最上階のラウンジ。
眼下にキラキラとネオンが瞬いている。
上の星は見えないけど、下には無数に星が光ってる。

店内には他にもアフターと思われるカップルもいて、静かに寄り添っている。
テーブル席に通されたアタシたちは、村岡様と彩乃さん。殿とアタシが当然のように隣りに座った。

「サラのボトル開けは見事だったな。相当練習したんだろ?」
「ほんと。素敵でした」
村岡さんの言葉にすぐに肯く彩乃さん。
さすがプロ。

「ありがとうございます。何でもできるまでやらなきゃ気が済まないんです」
「おまえも見習え、上杉」
「あはは。俺は、上手くいかないと諦めますもんね」
「それがダメなんだよ。あと一押しで通りそうなのに、諦めが早いんだよ」
「でもね、村岡さん。すぐに、これいいって言ってもらえないものって……」

仕事の話になると、アタシたちはほとんど口を挟まず聞いてるだけ。
他の方が作ったカクテルを口にして、顔を上げると彩乃さんと目が合った。
『今日はおつかれさま』そんな気持ちで微笑むと、彩乃さんもニッコリ微笑み返す。

やっぱりうちの店って、チームワークがいいんだろうなって思う。
そりゃ、ちっちゃいイザコザはあるけど、蹴落としたりっていうのはない。
みんなローラママに怒られるから、自然と仲間意識が出来てきちゃうのかもしれない。
だから、アタシと彩乃さんの間に取った取られたなんてあっちゃいけない。

「あーっ!村岡さんだ。おーい」
突然、鼻に掛かった大きな声が聞えてきた。
お店の中にいる人たちが一斉に入口の方を見てる。
「たっちゃーん。おーい」

たっちゃん?

入口からこちらに向かって手を振っているのは、以前アタシを睨みつけてた女。
名前は……忘れちゃった。

隣りに男性がいてアフターっぽいのに、その女はズカズカとアタシたちのテーブルまで来ると、
「たっちゃん。結菜、寂しかった」
殿の左手に自分の手をからませた。

なに、この女。
そこはさっきアタシがドキドキしながら腕を組んだ場所なのに、気安く触んないで!

反対側で必死に叫ぶ。
絶対に顔には出さないけど!
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