銀座のホステスには、秘密がある

「彩乃さん、お久しぶりでぇす。ちっちゃいお店に移ったんですよね？彩乃さんがいないと、結菜、張り合いがなくってぇ。いつでも戻って来てくださいねぇ」

勝ち誇ったような、甘えた話し方。
なんでうちのお店がちっちゃいお店なのよ。
それに、上から目線の言い方。
ケンカ売ってるよね？

だけど、顔には出さない。口元に微笑を作る。
許せないけど。
でも、言っちゃダメ。
ダメ。
抑えて、アタシ……

「それは困るわ。アタシたちの大事な仲間なんだから。彩乃さん、もうどこにも行かないでね」

あ～、言ってしまった。

女はアタシのことを睨みつけてるようだし、
彩乃さんは泣き出しそうな顔でアタシを見つめてる。
村岡さんは、困ったように彩乃さんを見てるし、
殿は……

「ほら、おまえもアフターなんだろ？他の男待たせるなよ」
立ち上がって女の腰を押した。

そんなことに一々ズキッと反応するアタシの心臓が嫌い。

「たっちゃーん。待ってるのに」
「忙しかったんだよ」
「じゃ、電話にくらい出てよ」
「仕事中に出られる訳ないだろ？」
「じゃ、忙しくなくなったら電話くれる？」
「あぁ。かけるよ」
「嬉しい。絶対だよ。結菜、待ってるからね」
「あぁ。分かったから」

アタシたちのテーブルから入口の方へと移動していってる二人を見なかった。
見たくなかった。
背を向けてたのに、聞こえてきたのは二人の親密な会話。

結菜って娘と殿はそういう関係なの？。
個人的な関係？
身体の関係？
恋の駆け引きを楽しむだけの銀座のルールを超えて、男女の関係になっちゃってるの？
それか既に恋人同士……

どうしてそんなことでアタシの胸が痛む？

殿の恋人が誰かなんてこれっぽっちも興味がないし、
全く気にならないわよ！