銀座のホステスには、秘密がある
『これは有名な平家物語の……』

休みの日はいつもつるんでた。
充伸が部活を引退してからは、ほぼ毎日のように一緒にすごして、週末は泊りに来る。
二人でいてもくだらない話しかしないんだけど、

充伸も本当は俺の気持ちに気が付いているんじゃないかと思うときがある。

『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の……』

こうやって何もしないでただ二人でいるって状況に、
もしかしたら充伸は俺が言いだすのを待ってるんじゃないかって、
もしそうだったら、俺は言った方がいいんじゃないかって……

『沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色、盛者必衰の理を……』

沙羅双樹の花?

『この冒頭の文が表してる通り、平家っていうのは、とてつもなく栄えて、滅んでいったんだな。常なるものはない、と言うことだ』
『そう。常日頃モテてる奴が、ずっとモテ続けるとは限らないってことだろ?毘沙門天先生』
『俺のこと?』
『だはは。上杉ちゃんがモテてるの見たことないんだけど、大抵この手の歴史オタクを熱く語りだして引かれてるとこしか見たことない』
『そうそう。この前のはひどかったんだよな。俺が話してるのにさ……』

沙羅双樹の花の色ってどんな色なんだよ。

「なぁ」
「っ……」
突然起き上がるなよ。ビックリするじゃねーか。

「俺さ……」
「なんだよ。さっさと言えよ」
言うのか?
おまえから言ってしまうのか?

「俺。マジで大学目指してみよ―かな」
「……」
目指してなかったのかよ。
じゃーなんで教科書開いてんだよ。
つーか、大学行かないんだったら就活やれよ。

「なぁ、晶。おまえも行かねーか?」

「……おまえと一緒にか?」

「行こうぜ。塾。そこにはゼッテー出会いがあると思うんだけど」

塾かよ。
大学の話じゃなかったのかよ。
「おまえ、何しに大学行くんだよ」

「サークルっていうものに入って、なんか、こう、ウズウズするような日々を送りたいって、おまえは思わねーの?」


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