銀座のホステスには、秘密がある
「みんな。そろそろいい?」

久しぶりの花魁道中の日。
アタシたちはケンジさんの店にいた。

「あ、ゴンちゃん?準備完了。お願いします」
愛ちゃんがお店に電話してる。

「じゃ、並び順は……」
樹里がメンツを見て、指さそうとした時、
「樹里。トリを任せていい?」
「え?トリはNO,1の……」
「今日はアタシに先頭きらせて」
「なんで?どういう心境の変化?」
「先頭って気持ち良さそうだから」

理由になってないけど、樹里は渋々「はいはい」って先頭を任せてくれた。

「じゃ、並び順は……ハナちゃんが新しいからアタシの後ろで……あとは適当に、いい感じで……」
そんなアタシの采配をみんな笑って受け入れてくれた。
でも、
「彩乃さんはもっと後ろでいいよ」
「私もサラさんの近くにいたいんです」
ハナちゃんの後ろに彩乃さんが並んでる。

またケンカ?
この前みたいにイヤな空気を出すんなら、そこは離れて。

「うん。いいですよ。彩乃姉さんはハナの後ろで」
「うん。ありがとう」

へ?
この二人どうなっちゃってんの?

ハナちゃんがアタシの不思議そうな視線に気が付いて、
「だって好きなものが一緒だったら仲良くなりますよ」
ってニッコリ笑った。

「そう。良かったじゃない」
この前の険悪ムードはいけないけど、腕なんか組んで180度態度が違う二人にちょっと苦笑い。

「二人の好きなものって何?」
隣りで聞いてたケンジさんがハナちゃんに聞いてる。

「それは、サラさんです」

へ?
アタシ?

「待ち受けにもしてるんですよ。見ますか?」

そう言って小さなポーチからスマホを取り出してケンジさんに見せてる。
彩乃さんも「私も」なんて言って、ピンクのスマホを取り出してる。

「おー。これはいいね。俺にも頂戴」
「ダメですよ。外部には出せないんです」
「ハナちゃん。何の写真?」

アタシも奪うようにハナちゃんのスマホを見たら、
真っ白いドレスを着たアタシ。
ご丁寧に全身が写ってる。

「すみません。隠し撮りしました」
彩乃さんがアタシを見上げてくる。
愛玩動物みたいに丸い目が微かに震えてて、こんな目で見られたら男はたまらないんだろうなって思ってしまった。
これが守ってあげたくなるタイプってやつか……

「ダメ。却下」
「えー。ごめんなさい」
「これ、写りが悪いから撮り直して」

数歩先に歩いてエレベターホールの前まで行った。
隣りには大きな窓。
今日のアタシはピンクパープルのタイトなドレス。
左足には太ももまでのスリット。
スリットから昨日念入りにマッサージした足が見えるようにポーズをつけて、

「どうぞ」

ハナちゃんと彩乃さんだけじゃなく、ケンジさんもスマホを取り出してる。
樹里まで……

「ブログ始めようかと思ってさ」
あとから樹里が教えてくれた。
お店のブログを作るんだって。

さすがだと思う。
冷静な樹里。
これで新しいお客様も来てくださるかも。
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