銀座のホステスには、秘密がある
カツリ。カツリ。カツリ。
銀座の街にアタシたちのヒールの音がする。

先頭を歩くのなんて久しぶり。
後ろには十数名の女の子たちを従えて、いろんな方向からの視線を感じる。

調子にのって歩いてたら、
「サラさん。ちょっと早いです」
後ろからそんな声が聞える。

気持ちよすぎて大股で歩いてしまってた。
集団が離れたから、少し待ってなきゃ。

緩く歩きだした時、
「おはようございまーす」
鼻にかかった声。
首筋にぞぞってイヤなものが走った。

「あらぁ?サラさん一番前なんですかぁ?もしかしてNO,1から落ちちゃったとかぁ?」
いきなりなんてこと言いだすんだろう。
このデリカシーのない声は、
いつか殿に腰を押されてた女。

「どちらさま?」
「えぇ?結菜を知らないんですかぁ?信じらんなぁい」

気持ち悪い。

「彩乃さん、なんでこんな人のいるところに移ったんですかぁ?かわいそぉ」
「ちょっと!」
ハナちゃんがケンカ腰で前に出ようとしたけど、その腕を引いて止めた。

何かがおかしい。

普通、花魁道中の時はご贔屓様か、全く知らない人しか声をかけない。
この前だってこの女は黙って睨んでるだけだったのに。

ぽってりした唇が勝ち誇ったように歪んでる。

「用がないんだったら、失礼」
安い挑発に乗っちゃダメ。
絶対、何かある。

「彩乃さぁん。結菜、彩乃さんにごめんなさいしなきゃいけないことがあるんですぅ」
歩き出したアタシのすぐ後ろで嫌味な声がまだ聞こえる。

「彩乃さんのお客様、結菜の方がいいって言って、またグリッターに戻って来てくれたんです」

カツ。
相手にしちゃいけないと思うのに、アタシのヒールの音が止まった。

「……そう。それは……頑張ってね」
頼りなげな彩乃さんの声。
そんな娘の言うこと聞いちゃダメなのに……

「今日。結菜の同伴相手、たっちゃんなんですぅ」

今、なんて言った?
思いだすのは、「たっちゃん」って呼びながら殿の左腕に纏わりついてた女と、親しげに話をしている殿。
殿、この娘の方を選んだの?

女は「ごめんなさぁい」なんて言ってるけど、絶対に謝ってなんかいないって感じ。
彩乃さんも何か言ってやればいいのに、顔がひきつってて……ダメよ、そんなんじゃ。動揺してるって悟られてしまう。

「ごめんなさい。彩乃さんのお知り合いの方かもしれないけど、アタシたちこれからお仕事なの。邪魔しないでもらえる?」

口元には微笑を湛えて、目だけで相手を威圧する。
これはあかねママがよくやる相手を黙らせる手段。

「彩乃さん。アタシの後ろについて。ハナちゃん、その後ろに」
「……」
「はぁい」

ハナちゃんもこの状況を感じ取ったのか、敢えて楽しそうに答えてる。この娘、分かってる。
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