銀座のホステスには、秘密がある
「彩乃さん。胸張って」

斜め後ろを歩く彩乃さんは下ばかり向いてる。
ダメだってば、こんな時こそ堂々としなきゃ。

「すみません」
彩乃さんのプルプル震える肩が、本当に小動物みたい。

信じちゃダメよ。揺れちゃダメ。
アタシたちはこれからお仕事なの。

そんな言葉が伝わるといい。
そう思って繋いだ手。
彩乃さんもギュって握り返してきた。

今は花魁道中の最中。
どこで誰が見てるか分からない。
最高の笑顔で、美しさで、周りの人たちを惹きつけるの。

カツリ。

大きく開いたスリットから、白い左足が覗く。

アタシはモンテカルロのサラ。
NO.1はアタシなの。

あんな娘の揺さぶりなんて気にしない。

例え、あの娘と殿が同伴してたとしても、絶対にこっちを向かせる。

通り過ぎる男性と何度も視線を合わせた。
時には微笑んでみたりもした。

後ろで名刺をお渡ししてる気配がする。
さりげなく振り返ると意外にもハナちゃんだった。

アタシが微笑んでハナちゃんが指名取れるんだったらいくらでも微笑むよ。


この日、新規のお客様がいつもの倍は来てくださったと、後からゴンちゃんが教えてくれた。
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