銀座のホステスには、秘密がある
その日の帰りは珍しくアフタ―もなく、早く帰れるとちょっと足早に歩いていた。

「サラさん」
お店のあるビルから少し行ったところで、後ろから走ってくる音が聞こえる。

振り返ると彩乃さんが高いヒールで一生懸命走ってる。

「お疲れ様。どうしたの?」
「サラさんにお礼を言いたくて、今日は庇っていただきありがとうございました」

乱れた息を必死に整えようと彩乃さんが胸に手をあてている。

「別にお礼を言われることでもないけど」
「でも、嬉しかったんです。特にサラさんが手を繋いでくださったとき、本当に心から安心しました」
「そう」
「実は、私、あの娘のことが苦手だったんです」

今更言わなくても分かってたって感じなんだけど、彩乃さんは「こんなこと言っちゃダメですよね」なんて言ってる。

ダメな訳ないでしょ。
あっちはもっと酷いこと言ってんのに。

「あの娘がいっつも私に張り合ってるように感じて……それで前の店にいずらくなって……」

間違ってないと思うよ。
彼女は間違いなく彩乃さんに対抗意識を持ってる。

「なぜか、私のご贔屓さんばかりと仲良くなりたがるんです」

……じゃ、殿との仲も彩乃さんに対する当てつけ?
だったら同伴だとしても大したことないってことね。

「彩乃さん。もっと強くならなきゃ」
「サラさん」
「あなたはこれからのモンテカルロを背負って行く人なんだから」
「そんなっ。私なんてまだまだですよ」

アタシったら何言ってるんだろ。
ママにこの前言われたようなこと言ってる。
モンテカルロのママ。

ドキドキする響き。
だけど今のアタシじゃダメだってことはよく分かる。

「彩乃さん。お茶してか…・・・」

もっと彩乃さんと話さなきゃって思ったアタシの目に飛び込んできたのは、アタシを凍り付かせる光景。

「たっちゃーん。うちで飲み直そぉよ~」

甘ったるい声が数メートル離れてるここまで届いた。
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