銀座のホステスには、秘密がある
殿は彩乃さんのことが好きなのに、なんであんな娘と付き合っちゃうんだろう。
村岡さんに遠慮して?
男の考えることって分からない。
真正面から好きって言っちゃえばいいのに……

アタシは……
アタシが殿に気持ちをつたえても迷惑だろうし、
アタシは殿との未来なんかないし……

だったら、殿と彩乃さんを応援するしかない。
あんな娘より、彩乃の方がいいに決まってる。

ダッシュで隣の路地を回って、先へと回り込んだ。
忘れ物をして途中でお店に戻ってますっていうシナリオで二人の前に現れる予定。

そして、殿とあの娘を真正面に捉える。
アタシは敢えて、歩調を緩めて、二人にぶつかるくらい近付いた。

「あら。上杉様」
にっこりと微笑む。
もちろん隣で殿の腕にぶら下がっている女は無視して。

「銀座にいらしてたんですか?」
「サラ……まぁ、そんな感じだ」
「たっちゃん。行こう」
アタシが殿と話してるのに、ぽってりした唇を尖らせて女が口を挟む。

「そうでしたね。そう言えば、今日は同伴だったって伺いました。ずっとそちらの方と?」
「いやぁ。仕事が長引いて、結局今日はどこの店にも入ってないんだよ。サラ。もしかして妬いてくれてるの?」
「たっちゃん!」
殿。隣りに女の子連れてるのに、他の女を口説いちゃダメでしょ。
そう注意したくなるけど、クシャリと微笑まれると何でも許してしまいたくなる。

「ぅふふっ」
つい、口元が緩んでしまった。

「……」
なのに隣の女はアタシが笑ったって勘違いしたらしく、もの凄い目で睨んで来る。

でも、もう怖くない。
だって、殿はこの娘と深い仲じゃない。

根拠はない。
強いて言うなら、オンナの勘。

「それでは失礼します」
アタシが頭を上げ切らない内に、殿は腕を引っ張られてアタシの横を通り過ぎていった。

負けない。
あんな娘に負けたくない。

殿には彩乃が似合ってる。
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