銀座のホステスには、秘密がある
「何も?何も話さなかったの?」
「話は普通にしてましたけど、そんな、それ以上の関係とかは、ちょっと……」

翌日のメイクルームの片隅に、彩乃を呼んだ。
昨日は置いて帰るように木戸様と帰ったから。

「そっか……」

やっぱり、自分からは言いだしにくいってことね。
分かるわ。
告白は、勇気がいることだものね。

「サラさん。あの、私……」
「分かった。大丈夫よ。次の作戦に移りましょ」
「作戦って」
「鍋パーティーしましょう。彩乃の家で。そこで家庭的な感じをアピールするの」
「私の?」
彩乃ったら、もう顔が赤くなってる。
「そう。もつ鍋とか作れる?あと、こたつもある?」
「うちは、ダメです。母がいるんです」
「実家だったの?」
「はい。母が病気がちで、それであの私が働かなきゃって……」

そんな事情があったなんて……
知らなかった。
キャバ嬢に憧れて入ってくる娘が多くなったのに、この娘は苦労してるんだ。

「彩乃……」

アタシがなんとかしてあげなきゃ。
絶対、あんたはアタシが幸せにしてあげる。

「大変だったわね」
「あの。でも全然気にしないでください」
「分かった。頑張って。アタシ、上杉様とのこと全力で応援するから」
「サラさん?」
「上杉様を落とすには、やっぱり家庭的な雰囲気がいいと思うのよね。だからどっかのお店に誘うのとかはちょっと違うし。ピクニックに行く?それも寒そうよね。ドライブって言っても、ゆっくり飲めないし……」
「そんな……いいです」
「あ、アタシんちは?もし彩乃がイヤじゃなかったら、アタシもいるけど……」
「サラさんち?」
くるくるとした丸い目でアタシをみあげてくる彩乃。
その目がもうOKって言ってる。

「アタシは途中で消えるから、あとは上手くやってね」
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