銀座のホステスには、秘密がある
傾国の美女
カツリ。

やっと地上に出られた。

「はぁ」

地下鉄のイヤな匂いを身体から追い出すように一息つく。
地上の綺麗な空気を吸い込みたかったけど、銀座もまだまだ蒸し暑い。

カツリ、カツリ。

そんな暑さも表情には出さないで歩き出すと、ヒールの音が銀座の街に響いてく。

風になびく長い髪。
ミニスカートから覗くのは細い足。

カツリ、カツリ。

ヒールの音に釣られるように周りからの視線を感じる。
アタシの斜め前を歩いてたサラリーマンは立ち止まってまでこっちを見てる。
口は半開きで魂を抜き取られたような顔。
そんなサラリーマンに流し目で応えて、前を向く。

カツリ、カツリ、お気に入りの音が銀座の街中を進んで行く。


「お姉さん。これから出勤?」

ビックリした。

「お姉さんみたいなすごい美人を見たの初めてだよ」

アタシも
貴方を見たのは初めて。

「今のお店で満足してる?もし良かったらさ、うちの店も覗いてみない?お姉さんなら、今のとこの倍は稼げるよ。俺が保証するし」

ピタリと横についてくる男に視線を向けると、男は息を呑んで立ち止まった。

「結構です。ありがとう」
口許に微笑を浮かべて断れば、声を掛けてきた小柄な男は「う……」と言ったきり、壊れたロボットみたいに動かなくなってしまった。

どうしよう。このまま置いていっていいのかな……

「おい!何してんだよ!」
背後からドキリとするような大きな声がして振り返れば、ロン毛の男が小走りにこっちに向かってきてる。

「すみませんでした」
ロン毛の男は頭を下げて、動かなくなった男を引っ張っていった。

良かった。

「あ、あの人、誰なんすか?」

カツリ、通りすぎようとすると後ろから聞こえた男の声。

「バカ!なんであの人をスカウトしてんだよ」
「有名な人なんすか?芸能人とか?」
「あの人を銀座で知らない奴はいねぇよ。
あの人が、噂のサラだ」
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