銀座のホステスには、秘密がある
「彩乃さんと二人で何の話?」
メイクルームに戻った途端、ニヤニヤ顔の樹里が隣の椅子に座ってきた。

「ん?ちょっとね。ねぇ、樹里はもつ鍋の作り方って知ってる?」
「は?何の?」
「もつ鍋」
「あんた達そんな話をわざわざ外でしてたの?」
「いいから。どうやって作るの?」
「えー。知らない。だしとか取って、そこにドバって入れればいいんじゃないの?」
「だしってどうやって取るの?」
「こんぶ?やったことないから分かんない」
「もう樹里ったら、料理ぐらいできる女だと思ってた」
「んな、何勝手なこと言ってんのよ。サラだってできないじゃない」
「そうね。アタシ今までお料理必要だと思ったことなかった」
「お料理必要になったの?良い人ができたのね?」

樹里を見ると、思いっきり口元が横に伸びてる。

「そんなんじゃないって」
「へー。誰?」
「違うってば」

手元にあったハンカチを投げつけると、
「教えなさいってば」
またそれを投げ返された。

「違うって」
「違わないって」
「もう!」
「言え!」
言葉と同時にハンカチのぶつけ合いをしてたら、

「仲良いですね」
クスクスと周りから笑い声が聞こえてきた。

いけない。大人げなかった。

「さぁ。みんな今日も頑張りましょう」

取ってつけたように立ち上がって言うと、
隣りで樹里が笑ってた。
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