銀座のホステスには、秘密がある
最後に話したのはいつだろう。
4つ歳が離れてる姉ちゃんは、小さな時からアタシの前に君臨する女王。
姉ちゃんにこき使われ、反抗できなかった幼少期は苦い想い出。
そしてあの頃から、姉ちゃんの可愛い洋服がいつも羨ましかった。
どうして姉ちゃんばかりピンクの洋服なんだって、ずっと思ってた。

もう結婚して、子供もいる。
仕事もやってるらしくて、すごい頑張ってるらしい。

ただ懐かしく思って、スマホに手を伸ばした。
姉ちゃんはどうしてるんだろうか。って……

「もしも……」
『アキラ?何やってんのよ!ずっと連絡もよこさないで、あんた、アタシが何回電話しても電話出ないじゃない。こっちはずっと心配してるんだからね!電話は通じてんのね?晶?晶なんでしょ?何とか言いなさいよ』
「うん……」
『今どこにいるの?帰ってきなさい。お母さんだって心配してんのよ。お父さんだって晶に会いたがってるのに。このバカ弟!何してんのよ!生きてんの?』
「……うん……」
『うん。じゃないわよ、全く。死んだら電話掛けられないくらい言えないの?で?今日は何の用事?帰ってくるって言うんなら話聞くけど?』

どうやら話題は一つしか与えてもらえないらしい。

「じゃ、いい」
『いい。じゃないでしょ!何かあったの?ちゃんと仕事はしてるの?」

早い。
こっちに付け入るスキを与えない。
昔話を……なんてセンチメンタルなことを考えた時点でアタシの負けだった。

「うん……」
『ちゃんと仕事してるんだったら堂々と帰っておいで。食べれてるの?食べなきゃ精が出ないんだから、たくさん食べなさいよ』

お母さんに似てる。
姉ちゃんも良い母親になってんだろうなって、一瞬そんな光景が頭に浮かんだ。

『で?どうしたの?何かあったの?お金?』
「お金はある」
『じゃ、何?』
「……もつ鍋の作り方知ってる?」

たっぷり3秒の静寂があった。
スマホの向こうからの物音まで聞こえた後、

『はぁ?』

鼓膜が破れるかと思うくらい大きな声だった。
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