銀座のホステスには、秘密がある
『なに鍋?』
「……もつ……」
『もつ鍋?』
「分からなかったらいい」
『あんたそんなことの為に電話してきたの?』
「そうだけど……」
『ほんっと、笑えるんだけど』

って全く笑わずに行った姉ちゃんは、散々アタシをバカにした挙句、
『教えてあげるから、帰っておいで』
軽く言う。

そんなの無理だよ。
この格好で実家の近くなんて行けないよ。

「ううん。行く余裕ないから電話で教えて」
『じゃ、あたしが行ってあげるから』
「いいよ」

こんな姿見せられる訳ないじゃん。

『明日パートが休みだから、行ってあげる』
「いいってば」
『あたしが行ってあげるって言ってんのに断るの?晶の分際で断れると思ってんの?それにあんたがどうやって暮らしてるのか、みんな心配してんのよ。元気そうな顔見たら安心するから』
「でも……今のアタっ、オレの生活見せられるようなもんじゃないから……」
『何言ってんのよ。どんなボロいとこに住んでても驚かないわよ。むしろずっと一人で頑張ってんだから褒めてあげる。あたしが褒めるんだからね。だからどこに住んでんのか言いなさい』
「……中野……」

なんで言ってしまったんだろう。
今でも姉ちゃんに褒められたいって思ってるとか……
アタシってバカ!

『中野ね。知ってる。新宿からちょっと横に行ったとこね?分かる。行ける。あ、でも行けないかも。新宿までなら行けるから、迎えに来て』
「来なくていいって」
『晶がどんな生活してても、姉ちゃんはあんたの味方だよ。誰にも言わないから。あんたが今まで一人で頑張ってきたのを姉として褒めてあげたいだけだよ。お土産は何がいい?晶が好きだったケンタッキーのチキン買ってってあげようか?』

そんな昔のことよく覚えてたな、って思う。
忘れられてなかったんだ。

「そんなのこっちでも買えるよ」
『じゃ、近所のお肉屋さんに美味しいもつ鍋用のお肉があるから、それ買ってってあげようか?」
「うっ……練習用と、本番用?」
『分かった。多目に買ってく。新宿着く時間分かったらまた電話するから、今度は出なさいよ』
「あっ、朝早いのは無理だよ」
『……』

それだけでアタシが夜の仕事をしてるって分かったみたいだった。

それでも姉ちゃんは、
『分かった。昼頃ならいい?』
ちょっと優しい声で聞いてきた。

「うん……」
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