銀座のホステスには、秘密がある
サラ……
もちろん本名じゃない。

お店で働き始める時につけた名前。

沙羅……
本当は漢字で書きたかったけど、
ママに止められた。
読めないわ~、の一言で。


「いらっしゃいませ。サラ様」

ショーウィンドーを覗きながら到着したのは銀座の美容室。

「こんにちは。今日のケンジさんは忙しそう?」
「いえ。大丈夫ですよ。今日はあとお一人です」
「ホント?じゃ、ケンジさんでお願い」
「かしこまりました」

いつもは予約がたくさん入ってるケンジさんが空いてるなんて、なんだかツイテル。
今日は良いことがありそうな予感。

「お待たせしました。サラ」
「ケンジさん」
「こちらのお席へどうぞ」
「ぅふふ。ありがとう」
「あれ?今日は楽しそうだね」
「そうね。だってケンジさんにやってもらえるから、テンション上がっちゃった」
「そう言ってもらえると嬉しいね~。じゃ、今日はたくさん盛っちゃおうか?」
「いつも通りでいいよ。ちょっと大人っぽい感じにして」
「リョーカイ」

ケンジさんの手が髪に触れる。
男らしい手が無駄なく動いてあっという間にカーラーが巻かれていく。

香水の香りや整髪料の匂い。
たくさんの女達が順番待ちをして、たくさんの着飾った女達がここから出ていく。

ここでアタシは変身する。

髪をセットしてもらいながら、膝の上には最新の雑誌。

良いオンナになるための儀式。

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