銀座のホステスには、秘密がある
その足でケンジさんのお店に向かった。
いつもの銀座の街が、キラキラ輝いて見える。
ヒンヤリとした風も、気持ちよく感じる。

「サラ。今日は遅いね」
「今日。すっごく大事な人と会ってたの」
「何?カレシでもできたの?」

ケンジさんが軽く聞いてくる。

「ううん。彼氏よりももっと大事な人」

ケンジさんは「誰だろ」なんて言いながら、素早くカーラーを巻いていってくれてる。
アタシは微笑むだけで手元の雑誌に視線を落とした。

頑張らなきゃな。
なんて心の中で呟いていた。

そんな大事なひと時だったのに……

「ケンジ!」
甘たっるい声が聞こえてきて、ピシって頬が固まる。

「あぁ。結菜ちゃん。いってらっしゃい」
「今日の髪型、結菜すっごい気に入ったから」

振り向かなくても分かる。
グリッターのあの女だ。
殿のことを、たっちゃんって呼ぶあの女。

「結菜さん。どうしたんですか?」
「行かないんですか?結菜さん」
今日は他の娘と一緒らしい。

「ううん。行こう」

甘ったるい大きな声が、歯ぎしりしたくなるくらい気持ち悪い。
だけど、おとなしく雑誌を見てたら、ケンジさんがいなくなった瞬間、
「花魁道中とか言って調子に乗ってんじゃねーよ」
「……」
耳を疑う言葉が聞こえてきた。

「なんですか?」
あの女の取り巻きみたいな別の女が、わざわざ聞きたていている。

「あの人、結菜をライバルだと思ってるみたい」
「えー?あのオバサンが?」
「それは失礼だよ。聞こえちゃうよ」
「あはは……」
って、わざとだよね?

「全然結菜さんの方が可愛いー」
「ありがと。いこ」

カツカツと耳障りなヒールの音を響かせて去っていったグリッターの女。
アタシに勝った気でいる。
どっちがライバル視してんだって感じ。

こうなったら、何が何でも彩乃と殿をくっつけないと!
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