銀座のホステスには、秘密がある
3人の夜
「どうぞ。入って」
「おじゃまします」

何度もシミュレーションして、彩乃とも作戦会議を繰り返して、ドキドキしながら迎えた土曜日。
あっという間だった。

「うわー。素敵なお部屋。私が想像してたよりも凄いです」

殿との約束の時間より2時間早く彩乃が到着した。
そんなに早く来なくても大丈夫だって言ったのに、彩乃も落ち着かないのね。

「サラさん。香水の瓶がこんなに。どれが普段使ってるやつですか?」
「えと、これ」
「これいい香りですよね。私も、真似していいですか?お店にはつけてこないので」
「彩乃もこの香り好きだったの?じゃ、これあげるよ」
「いいですよ。いただけません」
「遠慮しないで、アタシ他にもお気に入りあるから。全然いいよ」
「いえ。サラさんとお揃いにしたいんです。いただいたらお揃いにならないじゃないですか」
「……そうなんだ」

仲の良い女の子同士って香水もお揃いにしたいの?
初めて知った。
樹里はアタシが使ってる香水は絶対つけたくないって言ってたのに……
樹里と他の娘を一緒にしちゃいけなかったのね。

「いいよ。お揃いにしましょ」

こういう女の子のノリって楽しい。
クスクス笑いながら一緒にキッチンに立った。

彩乃は手際よくサラダを作っていく。
「彩乃。これ何?」
「鶏肉でハムを作ってみました」
「手作り?ハムって手作りできるの?」
「はい。簡単なんですよ。ちょっと味見しますか?」
「うん……美味しい」
「ありがとうございます」
頬を染めてアタシを見上げ、はにかむように笑う彩乃に、ドキリとした。
守ってあげたくなる。
こんな娘が美味しいご飯を用意して家で待っててくれたら、すごい幸せなんだろうな。

「彩乃と結婚する人は幸せ者ね」
ちょっとだけ殿にジェラシーを感じてしまった。

お料理が一段落したら、紅茶を淹れて彩乃といろんな話をした。
だいたいはお互いの失敗談。
いまだからこそ笑える話で、アタシも彩乃もたくさん笑った。

「まるで女子会だね」
ってアタシが言ったら、
「それいいですね。今度、仕事がお休みの日にハナちゃんも誘って女子会しましょ」
って彩乃が言う。

社交辞令じゃないよね?
それ、本当に楽しみなんだけど、

「サラさん。パンケーキのお店に行きませんか?」
「行きたい」
「横浜にあるらしいんです。すっごく美味しいパンケーキのお店」
「へー。ちょっと遠出だね」
「私、車出します。サラさんと行けたらいいなって、ずっと思ってたんです」
幸せそうに笑う彩乃が、可愛らしくて……
誰にも渡したくないって思ってしまう。

アタシったら、何を考えてるんだろ……

「だったらアタシとじゃなくて、上杉様と行けばいいじゃない」
彩乃の顔を見れなかった。

「そうですね」
彩乃からの小さな同意の言葉に、ズキリと胸が痛む。

どっちに嫉妬してんだろ。

「……」
「……」

違う。
今日は、二人を応援するって決めたのに……

「彩乃……」


その瞬間、スマホの画面に『上杉様』の文字が光った。
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