銀座のホステスには、秘密がある
「どうぞ」
「おぉ。良い部屋に住んでんだな。こたつまであるやん」

アタシが用意したスリッパを履いて、アタシの部屋に殿が入ってくる。

「こたつで鍋パーティーしたら楽しいんじゃないかって、彩乃が言いだしたんです」
「へー」
「じゃ、殿はあのお席にどうぞ」

中央の席に殿。
その向こう側に彩乃。
手前にアタシ用の座椅子。

この状況にドキドキする。

「サラ。これ土産」
「ありがとうございます。ケーキ?」
「前に話しただろ。タルトの有名な店が近くにあるんだよ。そこの」
「嬉しい。覚えててくれたんですね?」
「当たり前だろ。おまえが残さず食うまで見てるからな」

あはは。と笑う殿を彩乃も微笑んで見てた。

「さぁ。二人とも座ってて」
「あ、私がやります。サラさんこそ座っててください」

アタシがキッチンに向かおうとしたら、彩乃が阻止した。
うん。ここはお任せした方がいいかもしれない。

「殿。今日のお料理は全部彩乃さんが作ってくれたんです」
「へー。彩乃はすごいな」

殿が嬉しそうに言うと、彩乃がアタシの方をチラリと見てくる。
もう、何度も言ったのに。
まだ遠慮してるの?
アタシが肯いたら、やっと彩乃も
「ありがとうございます」
小さな声で答えてた。


「カンパイ」
冷えたビールで乾杯して、殿がもつ鍋に手を伸ばした。
アタシが一人で作ったもつ鍋は、姉ちゃんのに近づけたと思うけど……

「旨い」

殿の心の底からの叫びみたいな感想に、こたつの中でガッツポーズをした。

「ホント。美味しい。ありがとう彩乃さん」
アタシが言えば、
「彩乃はいつでも嫁に行けるな」
って殿が言う。

ほらね。
男の人は料理上手な女の子に落ちるの

作戦成功、の文字が頭に浮かぶ。

「ねぇ、殿。このラザニアも食べてみましょうよ」

大きなお皿から取り分けて、二人に配る。
殿はそれも美味しいって食べてくれた。
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