銀座のホステスには、秘密がある
タルトのお皿を片付けるって言って、一人でキッチンに戻った。

ちょっと早いかもしれないけど、次の作戦に移ろうと思う。

仲の良い二人を見てるのが、そろそろ辛くなってきた。

「いっけなーい。牛乳を買い忘れてた」
わざとらしくないくらいの大きな声で、二人に聞こえるように叫ぶ。

次の作戦は、アタシが買い物に出るふりして、戻って来ないっていう最終章。
あとは彩乃が頑張るしかない。
もう、アタシにできるのはここまで。

「いらんやろ」
こたつから殿が不思議そうな顔で見てる。

「どーしても殿に飲んでもらいたいカクテルがあるんです。けど、それは牛乳で割らないと美味しくなくて」
「いいよ。俺はこの熱燗で十分だよ」
「ううん。すぐだから。すぐそこのコンビニに行くだけだから」

アタシがコートを取ると、彩乃がその手を止めた。

「サラさん……」
「何?」
思いつめたような顔で俯いてる彩乃。
どうしたの?

「私が行きます」

彩乃が顔をあげてアタシに宣言する。

「何言ってんのよ……」
ここでアタシが消えなきゃ作戦が台無しじゃない。

「いいんです。私が買いに行ってきます」
「ダメよ。何言ってるか分かってんの?」
「はい。サラさんは残ってください。私が行きます」
「何で?アタシが買いに行くって言ってるじゃない」
「でも、私が、行きたいんです」

潤んだ瞳でしっかりアタシを見つめてくる彩乃。
そんな目で見られたら何でも言うこと聞いてあげたくなるけど、
こればかりはダメよ。

「彩乃……」
「サラさん……」

「なら、俺が買ってこようか?」

「殿は座ってて!」

こたつから立ち上がりかけた殿を慌てて止めた。

牛乳が欲しい訳じゃないのよ。
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