スマイル 〜約束した君へ〜
「…殴ったら気が済むの⁉︎ …だったらもっと殴れば⁉︎ …私はへーき。こんな痛み…そうちゃんの痛みに比べれば…大した事ないから…!」



何の病気か知らないけど、血相変えて看護師さんが飛び込んできた。
後からウソだと聞かされても、あの時の皆の顔は真剣だった。


だから、そうちゃんの病気は、重くなればなる程、痛みが出るものなんだ…って思った……。



ゆらっ…と立ち上がる。

そうちゃんを侮辱する人は許さない。
それが例えば弟さんでも、絶対に許さない…!


「…ほら、殴っていいよ、誰にも言わないから。…殴りたいんでしょ。私のこと…。嫌いなんでしょ。私のこと…。そうちゃんとの思い出……私の方が多いかもしれないもんね…!」

「やめろ!」

手を振り上げる。
ぎゅっと目をつむる。
殴られる覚悟はできてた。
でも、ビンタが飛んでこない。



そ……っと目を開けた。
目の前の人が……

泣いてる。

声を出さずに

手を振り上げたままーーーー




「河口く……」

「お前は……何も知らねぇから…」


口惜しそうな顔…。
泣き声を殺すように、一つ一つ、絞るように話し出す…。



「お前が…「また会おう」って…約束した相手が…誰か…知らねぇから……そんな口…叩けるんだ……。こっちは今日まで…それが負担で…仕方なかったのに……」


ボロボロこぼれ出した涙を拭って、走り去る。
今度は追いかけたくても、足が前に進まなかった。
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