スマイル 〜約束した君へ〜
「……あの……河口君……」


甘えるような声にハッとした。
後ろから差し出される紙に気づいて、振り返った。


「一人一部ずつ取るようにって…回ってきたから…」


オドオドしながら言う。
今朝のオレの態度を覚えてて、少し怯えてるみてぇだ。


無言で紙を受け取る。
一部だけ取って、すぐに前の奴に渡す。

表紙に描かれた文字。
『クラブ案内』


どちらかと言うと、『他所者』向けの資料。
『風見鶏』は小学部から部活に入ってて、活動してる奴らが殆どだから。



「ハルナちゃん、中学で何か部活してた?」


早速、ダイゴが聞いてる。

こいつはホントに誰にでもフランクで愛想がいい。
センパイの言った通りじゃねぇけど、口の重いオレとは正反対。



「私…軟式テニス部だったの…」
「へぇー…テニスかぁ…」


ダイゴが感心してる。

…ぱっと見トロそうな奴がテニス。意外だ。



(マトモにできたのか…⁉︎ )


勝手に考える。
昨日の様子からして、そんなにスポーツのできるようには見えねぇけど…。


「下手くそで…まともにラリーできないから、いつも球拾いばかりしてた…」

「ブッ…!」

(マズい!)


思わず口を押さえる。
思ってた通りの展開に、吹き出しそうになる。

笑いを噛みしめるオレの背中を二人が見てる。
プルプル…と体を震わせるオレを無視して、ダイゴが話し始めた。
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