Fly*Flying*MoonLight
満月

AM10:00 総務室~秘書室

「……内村さん」
 田中さんが受話器を置いた。
 さっきの電話……やっぱり……
「例によって、上から呼び出しよ?」
 はあ、と私はため息をついた。
「ついでにこの書類、社長室に届けてくれる?」
「……はい、わかりました」
 どっしりと重みのある資料を田中さんから受け取る。今日は月1のレビュー報告の日。
 私は深いため息とともに、エレベーターで最上階の役員フロアに行き、秘書室にノックして入った。

「……総務部から、レビュー報告資料をお持ちしました」
 ノートPCに打ち込んでいた、女性が顔を上げた。
「ご苦労様。そのBOXの中に入れて置いて」
 ぺこり、と頭を下げ、指定された書類BOXに持ってきた書類を入れる。
「今日は早いのね、総務部」
「……先月、社長に怒られましたから」
 アーモンド形の瞳。つるんとした卵のような輪郭。艶やかな髪を後ろでアップにしている美月さんは、社長秘書というよりは、モデルのようだった。
「……」
 美月さんが、私をまじまじと見る。
「なんでしょうか?」
「内村さん……だったわね。総務部での仕事はどう?」
「どうと言われましても」
 私は首をかしげた。
「普通……としか」
 ふふっと美月さんが笑う。妖艶な微笑み。
「……社長が何をお考えなのか、私にもさっぱりわからなくて」
 第一社長秘書の美月さんに判らないんじゃ、一般社員の私に判る訳などない。
 インターホンが鳴る。
「……はい」
 美月さんが応答してるのを聞いて、深いため息が出た。

 また、なのね……。

「……社長室にどうぞ、内村さん」
「はい……」
 くすくす……と美月さんが笑う。
「この会社の女性社員で、社長に会うのがそんなに嫌そうなのは、あなたぐらいのものよ?」 

 ……だって。嫌だし。

 ……とは、社会人として言えない。

 美月さんの前を通り、大きなドアをノックする。
「……どうぞ」
 なんか機嫌悪そうな声が聞こえた。
「失礼します……」
 私はゆっくりと重いドアを開け、中に入った。
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