Fly*Flying*MoonLight

AM6:00 食堂

「……いい匂い、だな」
 きっかり六時に和也さんが現れた。薄いブルーのワイシャツに、黒っぽいスラックス。第二ボタンまで外してるから、くだけた感じがした。

「そこのテーブルにどうぞ。洋食ですけど……」
 和也さんが椅子に座る。焼け立てのパンにマーガリン、ミネストローネ、サラダを置いた。
「飲み物はコーヒーでいいですか?」
 和也さんが頷いた。
「……ブラックで頼む」
 こぽこぽ……とコーヒーをカップに入れて、和也さんの右手に置く。
 
 和也さんの向かいの椅子に座って、
「……いただきます」と、手を合わせた。和也さんも手を合わせてる。

 パンをちぎって、一口食べた和也さんが目を見開いた。
「……美味いな、これ」
「……ありがとうございます。ここの庭で採れたハーブ入りのパンなんです」
 私もパンをかじる。ほんのり甘くて、やわらかい。噛めば噛むほど、味に深みが増すパンだ。

「それから、このスープは、おばあちゃん直伝の『魔法のスープ』なんです」
 和也さんが、じっとスープを見た。
「ミネストローネですけど……隠し味があるんです」
 銀のスプーンで、和也さんが一口、具沢山のスープを食べた。
「……」
「私が病気をしたり、元気がない時に、いつもこのスープを作ってくれてたんです」
「……」
「『これは魔法のスープよ。飲むと元気になるの』っていうのが、祖母の口癖でした」
 ……和也さんは黙ったまま、だ。
 ふっと顔をあげた……和也さんの目が少し潤んでいるような……気がした。

「……和也さん?」
 和也さんは、右手でちょっと目頭を押さえて、掠れ声で言った。
「……少し、湯気が目にしみただけだ。確かに、これも美味い」
 私もスープを食べて、サラダをパンにはさんでサンドウィッチ風にした。
(うん、こうして食べてもおいしいなあ……)
 さすが、おばあちゃんの庭。ハーブも野菜も、栄養満点ですごくおいしい。

 和也さんは黙々と食べてる。

(……よく考えると、変な光景なのよね……)
 ――まさか、自分の会社の社長と……この館で、朝ごはん一緒に食べることになろうとは。

 ……耳を澄ます。警告音は何も聞こえない。
(……やっぱり、この人……館に認められてる)
 同じ血筋ってわけでもないのに、そんな事あるのかなあ。あとで、おばあちゃんに聞いてみよう。

 そんな事を思いながら、私も朝ごはんを味わった。
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