Fly*Flying*MoonLight
PM7:00 私の部屋
「……というわけなんだけど、おばあちゃん」
『そう……ねえ……』
水晶玉に映るおばあちゃんの顔は、前より若々しくなっていた。
……おばあちゃんが使っていた、直径二十cmあまりもある、大きな水晶玉。
おばあちゃんは、これで未来とか覗いていたけれど、今はもっぱらテレビ電話扱い、となっていた。
「……おばあちゃん、また若返ってない?」
ほほほ、とおばあちゃんが笑う。
『あの人が天に召されるのと同時に、一緒に年を重ねる魔法が解けたからねえ……そのうち止まるわよ』
うーん……。
「私と同い年とかにならないよね?」
『それはないわよ。多分、あなたの母親が生きていたら、ぐらいになると思うけれど』
……おばあちゃんは、若い頃、とある王様にプロポーズされた、という絶世の美女、だったらしい。今でも綺麗だもの。
その、おばあちゃんの美貌の血は、私のどこに流れてるんだろ……不思議だ……。
『その、社長さん……和也さん、だったかしら。館に受け入れられたって言ってたわよね?』
「うん……迷ってないし」
(ここ、不用意に足を踏み入れると、迷路みたいに感じるのよね……)
おばあちゃんはうーん、と考え込んだ。
『まあ……心当たりがないわけじゃ、ないのだけれど……』
「え?」
おばあちゃんは、じーっと水晶越しに私を見た。
『……楓。あなた、和也さんをあの人の部屋に泊めたって言ったわよね?』
「うん。男の人が寝られる部屋って、あそこしかないでしょ?」
『……』
……あ、もしかして。
「泊めちゃ、いけなかった? おじいちゃんの部屋、だから……」
おばあちゃんは、首を横に振った。
『そういう事じゃないのよ。まあ、従属してしまったのなら、仕方ないけれど……』
『……抵抗、なかったの? 和也さんを泊めることに』
「あったわよ? だけど……」
――高級な牢獄みたいな、冷たい部屋。あの部屋を……見たら。
「……あの部屋で、一人にさせたくないって思ったの」
『……』
「変よね? いい大人で、仕事できて、強引で……でも」
『……』
「なんだか……小さな男の子みたいに感じる時があるの。そうなると、ほうっておけなくて……」
『……』
まあねえ、とおばあちゃんがため息をついた。
『あなたの魔力の特性ね。その人の本性が透けて見えるっていう』
「……そう……かな?」
『おまけに感応能力も高いから、多分和也さんの本当の望み、を無意識に読み取ってるのね』
……本当の、望み。和也さんの。
『あなたがそうなってしまったのは、私の責任でもあるのよ……』
「おばあちゃん?」
『私はずっと魔女として生きて来たでしょう? だから、魔法の扱い方や魔女としての心得は、あなたに伝える事ができたと思っているのだけれど』
「うん……?」
『……でも、人間としての心得は、教え損ねてしまったのかも、知れないわねえ……』
「……それって、私、人間としてはイマイチってこと??」
『未熟ってことよ。特に女性としてはね』
じょ、女性として未熟って……。
「おばあちゃん、私もう二十二歳なんだけど……それで未熟って……」
『まあ、気をつけなさい。その館の中では安全だけど』
「うん……一応、暗い道は一人で歩かない、とか犯罪に巻き込まれないように、気をつけてるのよ?」
『あなたがそういう意味で気を付けないといけないのは、見知らぬ人じゃないと思うわよ?』
「そう……?」
『そろそろ切るわね。魔力の流れの向きが変わるわ』
「うん、ありがとう、おばあちゃん」
『落ち着いたら、こちらにもいらっしゃい。そう……和也さんも一緒にね』
「和也さんが魔女の村に行けるわけないじゃない。だって、普通の人間よ?」
ふふふっとおばあちゃんが笑う。
『普通の人間でも、ある条件を満たせばここに来られるわよ? 多分、彼はその資格を持ってると思うわ』
「……そう……なの?」
おばあちゃんの未来予知かなあ……。
じゃあね、とおばあちゃんの影が揺れた。水晶玉から光が消える。
……ふう。おばあちゃんと話して、ちょっと落ち着いた……かな。
今日、和也さんは打ち合わせや会議やらで外出したまま、だったから、先に帰ってきたけど。
……どうして、『守る』って言ったのか、自分でもよくわからない。
でも、守りたいって思った。たった一人で悪意と闘ってる気がしたから。守られるべき時に、守られていなかった……そう、思ったから。
(顔合わすの、ちょっと恥ずかしい……かも……)
ど、どんな顔すればいいのか、今更ながらわからなくなって……きた。心臓が……少し早くなってる。
夕ご飯も一応作ってあるけど、食べるかどうかも分からない、よね……会食とかあったら……。
(……でも……)
あれだけは、食べてもらおう。
……元気になって、ほしいから。
『そう……ねえ……』
水晶玉に映るおばあちゃんの顔は、前より若々しくなっていた。
……おばあちゃんが使っていた、直径二十cmあまりもある、大きな水晶玉。
おばあちゃんは、これで未来とか覗いていたけれど、今はもっぱらテレビ電話扱い、となっていた。
「……おばあちゃん、また若返ってない?」
ほほほ、とおばあちゃんが笑う。
『あの人が天に召されるのと同時に、一緒に年を重ねる魔法が解けたからねえ……そのうち止まるわよ』
うーん……。
「私と同い年とかにならないよね?」
『それはないわよ。多分、あなたの母親が生きていたら、ぐらいになると思うけれど』
……おばあちゃんは、若い頃、とある王様にプロポーズされた、という絶世の美女、だったらしい。今でも綺麗だもの。
その、おばあちゃんの美貌の血は、私のどこに流れてるんだろ……不思議だ……。
『その、社長さん……和也さん、だったかしら。館に受け入れられたって言ってたわよね?』
「うん……迷ってないし」
(ここ、不用意に足を踏み入れると、迷路みたいに感じるのよね……)
おばあちゃんはうーん、と考え込んだ。
『まあ……心当たりがないわけじゃ、ないのだけれど……』
「え?」
おばあちゃんは、じーっと水晶越しに私を見た。
『……楓。あなた、和也さんをあの人の部屋に泊めたって言ったわよね?』
「うん。男の人が寝られる部屋って、あそこしかないでしょ?」
『……』
……あ、もしかして。
「泊めちゃ、いけなかった? おじいちゃんの部屋、だから……」
おばあちゃんは、首を横に振った。
『そういう事じゃないのよ。まあ、従属してしまったのなら、仕方ないけれど……』
『……抵抗、なかったの? 和也さんを泊めることに』
「あったわよ? だけど……」
――高級な牢獄みたいな、冷たい部屋。あの部屋を……見たら。
「……あの部屋で、一人にさせたくないって思ったの」
『……』
「変よね? いい大人で、仕事できて、強引で……でも」
『……』
「なんだか……小さな男の子みたいに感じる時があるの。そうなると、ほうっておけなくて……」
『……』
まあねえ、とおばあちゃんがため息をついた。
『あなたの魔力の特性ね。その人の本性が透けて見えるっていう』
「……そう……かな?」
『おまけに感応能力も高いから、多分和也さんの本当の望み、を無意識に読み取ってるのね』
……本当の、望み。和也さんの。
『あなたがそうなってしまったのは、私の責任でもあるのよ……』
「おばあちゃん?」
『私はずっと魔女として生きて来たでしょう? だから、魔法の扱い方や魔女としての心得は、あなたに伝える事ができたと思っているのだけれど』
「うん……?」
『……でも、人間としての心得は、教え損ねてしまったのかも、知れないわねえ……』
「……それって、私、人間としてはイマイチってこと??」
『未熟ってことよ。特に女性としてはね』
じょ、女性として未熟って……。
「おばあちゃん、私もう二十二歳なんだけど……それで未熟って……」
『まあ、気をつけなさい。その館の中では安全だけど』
「うん……一応、暗い道は一人で歩かない、とか犯罪に巻き込まれないように、気をつけてるのよ?」
『あなたがそういう意味で気を付けないといけないのは、見知らぬ人じゃないと思うわよ?』
「そう……?」
『そろそろ切るわね。魔力の流れの向きが変わるわ』
「うん、ありがとう、おばあちゃん」
『落ち着いたら、こちらにもいらっしゃい。そう……和也さんも一緒にね』
「和也さんが魔女の村に行けるわけないじゃない。だって、普通の人間よ?」
ふふふっとおばあちゃんが笑う。
『普通の人間でも、ある条件を満たせばここに来られるわよ? 多分、彼はその資格を持ってると思うわ』
「……そう……なの?」
おばあちゃんの未来予知かなあ……。
じゃあね、とおばあちゃんの影が揺れた。水晶玉から光が消える。
……ふう。おばあちゃんと話して、ちょっと落ち着いた……かな。
今日、和也さんは打ち合わせや会議やらで外出したまま、だったから、先に帰ってきたけど。
……どうして、『守る』って言ったのか、自分でもよくわからない。
でも、守りたいって思った。たった一人で悪意と闘ってる気がしたから。守られるべき時に、守られていなかった……そう、思ったから。
(顔合わすの、ちょっと恥ずかしい……かも……)
ど、どんな顔すればいいのか、今更ながらわからなくなって……きた。心臓が……少し早くなってる。
夕ご飯も一応作ってあるけど、食べるかどうかも分からない、よね……会食とかあったら……。
(……でも……)
あれだけは、食べてもらおう。
……元気になって、ほしいから。