Fly*Flying*MoonLight
一週間後

PM1:30 総務部

「内村さん、社長室から呼び出しよ」
 席に戻ると、田中さんが教えてくれた。
「……最近、呼び出し減ったわよね?」
「はい」
 ……その代わり、毎日家で会ってますが。とは言えない。
 掲示板に社長室、と書き込み、田中さんに言った。
「では、行って来ます」
「いってらっしゃい」
 田中さんは、笑って見送ってくれた。

***

 エレベーターの中で、私はここ一週間の事を思い返した。

 和也さんは、毎日帰って、夕食も……ちゃんと食べてくれていた。
(もっと、不規則な生活してるのかと思ってた……)
 私がハーブや薔薇の花でいろいろ作ってるのも、興味深そうに見てた。

『これで、化粧水とかクリームとかにするんです』
『へぇ……』
 めずらしそうに、抽出した薔薇の精油を見てる和也さん。
『こういうのを、店に出してるんだろ?』
『はい、自然化粧品のお店に置いてもらってます。結構好評なんですよ?』
『……』
 和也さんは少し黙った後、私を見て言った。
『お前、こういう技術があるなら、これで生計立てようとか思わなかったのか? うちでやってる仕事と全然違うだろう』
 私は、乳棒で薔薇の花をすり潰しながら、言った。
『……だって、これだけじゃ、固定資産税が払えないんですもの』
『……』
 ……なんですか? そのがっかりしたような顔は?
『……えらく現実的な答えだな……』
『何言ってるんですか!! 魔女は税金払わなくていいなんて控除、日本の法律にはないんですよっ!!』
 ぷくっと膨れた私を見て、和也さんが笑った。

 ――ごくごく普通の毎日。普通の生活。
……その中に、いつの間にか、和也さんが溶け込んでいた。

(慣れちゃったのかなあ……いつの間にか……)

 ――エレベーターが止まる。私はフロアに降りて、秘書室へと向かった。
< 20 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop