Fly*Flying*MoonLight
PM5:00 秘書室~リムジンの中
「……内村さん!?」
美月さんが驚いたように声を上げた。
「は……い……」
思わず小声になってしまう。
「いやもう、久々に腕が鳴りましたよ」
岡村さんがにっこりと笑って言った。
「本当は、髪ももう少し短く切った方がと申し上げたのですが、それは嫌だ、とのことでしたので……」
「お肌もなめらかで、きめ細かく、ほとんど調整の必要ありませんでしたよ」
は、恥ずかしい……。
秘書室にある姿見に映る自分の姿。普段と全然違う。
――髪のすそに少しカールを入れ、トップからサイドにかけて、細かい編み込み。シフォン生地の白い薔薇がついた髪留めで、左サイドを留めてる。
ドレスは、白に近いアイボリーのサテン生地に、ふんわりしたシフォン生地を合わせたもの。丈はちょうと膝下ぐらい。
肩を覆うシフォン生地のストールを、白い薔薇のスカーフ留めで胸元に留めている。履きなれないヒールがちょっと痛い。
「イメージは妖精ですよ。オードリー・ヘップバーンのような」
「本当、妖精みたいだわ」
美月さんが感心したように言った。
「あ……りがとう、ございます……」
メイクも普段あまりしないから……鏡に映る自分の顔が見慣れない……。
「……あら? 変わったメダルね」
美月さんが私の胸元を見て言った。
――楕円形をした、銀のメダル。周囲は蔦の様な模様、中央に薔薇、その周りに古代文字らしき文様が刻まれていた。
「真珠を合わせようかとご提案したのですが、こちらのメダルがいいとおっしゃって……」
「これ、祖母のものだったんです。お守り代わりなので、つけてないと落ち着かなくて……」
「よく似合ってるわよ。雰囲気があって素敵だわ」
その時、社長室の扉が開いて、和也さんが出てきた。
「……美月。用意でき……」
私を見て、ぴたり、と足を止めた。
「……楓?」
「は……はい……」
私は目を見張った。和也さん……ゴージャスとしか、言いようがない……。
黒の礼服に白のドレスシャツ、派手な格好じゃないのに……目が離せない。和也さんも……私の事じっと見てる……。
「はいはい、お互い見とれてないで、準備準備」
美月さんの声に、あわてて視線を逸らす。
「……ありがとう、岡村。相変わらず、いい腕だな」
ふふっと岡村さんが笑う。
「いえいえ、内村様が素敵だからですよ。私はあくまで、彼女の魅力が引き立つように、お手伝いさせていただいただけのこと」
岡村さんが私の方に来て、右手をとった。
「また、いつでもいらして下さいね。お待ちしています」
「ありがとう……ございます……」
岡村さんも、スマートで素敵な人だなあ……さすが、ファッションの専門家は違う。深々とお辞儀をした後、岡村さんは帰っていった。
「……社長。お迎えが来たようですよ?」
美月さんの声に、和也さんは「わかった」と頷き……荷物を持った。
「ほら、行くぞ」
和也さんは……そのまま、すたすたと歩いて行った。私はぺこり、とお辞儀をして、慌ててその後を追った。
***
「……私、リムジンって初めて乗りました……」
座席ふかふか。腰を下ろしたら、沈み込みそうな感じ。こんな高級車で迎えに来るって……和也さんのご親戚って、かなりの富豪、なのかなあ……。
めずらしくて、きょろきょろしてたら、和也さんと目があった。
和也さん、さっきから口数少ないけど……疲れてるのかなあ。ここ数日ずっと夜遅かったし。
すっと和也さんの右手が伸びる。私がつけてる、銀のメダルを手に取った。
「……和也さん?」
「これ……は……」
「おばあちゃんからもらったメダル、です」
「……」
「私が生まれた時に、おばあちゃんが私にくれたもので……」
「……」
「ずっと身につけてる、お守りみたいなものです」
「……ずっと?」
「はい。肌身離さず」
「……」
和也さんは何か、考え込んでる。
「……これと同じ物はあるのか?」
「いいえ。魔女の家系に代々伝わるもので、それぞれの家によって紋章が違うって聞きました。この模様はおばあちゃんの家系のものです」
和也さんが手を離した。そのまま、窓の外を見てる。
「……今日、お前を連れて来るんじゃなかった」
独り言みたいに和也さんが言った。
「え?」
連れて来ない方がよかった……てこと? 私は、ちょっと俯いた。
「わ、私……じゃ、やっぱり見劣りするでしょうか。美月さんみたいに、美人じゃないし……」
「違う!」
え?
顔を上げると、和也さんが睨みつけるように、こちらを見ていた。
「……見せたくないんだ」
「え……」
「……今のお前。他の男に」
ぽかん、と口を開けた私を、和也さんがまた睨みつけた。
(な、なに……っ……)
何だか、すごく不機嫌なんですけど……っ!
和也さんは、ぷい、とまた窓の方を向いた。
……沈黙が続く。
ちら、と和也さんの方を見た。街の明かりが彼の横顔を照らしてる。
綺麗な横顔……。この人の横には、やっぱり美月さんの方が似合うよね……。
ちり……ん
……鈴の音?
メダルを手に取る。なんだか熱い。
(今、鳴った……よね……?)
こんなこと、初めて。何か……の警告?
和也さんは機嫌悪いし、何だか波乱含みな夜になりそう……。私は首をすくめながら、リムジンの窓の外を見ていた。
美月さんが驚いたように声を上げた。
「は……い……」
思わず小声になってしまう。
「いやもう、久々に腕が鳴りましたよ」
岡村さんがにっこりと笑って言った。
「本当は、髪ももう少し短く切った方がと申し上げたのですが、それは嫌だ、とのことでしたので……」
「お肌もなめらかで、きめ細かく、ほとんど調整の必要ありませんでしたよ」
は、恥ずかしい……。
秘書室にある姿見に映る自分の姿。普段と全然違う。
――髪のすそに少しカールを入れ、トップからサイドにかけて、細かい編み込み。シフォン生地の白い薔薇がついた髪留めで、左サイドを留めてる。
ドレスは、白に近いアイボリーのサテン生地に、ふんわりしたシフォン生地を合わせたもの。丈はちょうと膝下ぐらい。
肩を覆うシフォン生地のストールを、白い薔薇のスカーフ留めで胸元に留めている。履きなれないヒールがちょっと痛い。
「イメージは妖精ですよ。オードリー・ヘップバーンのような」
「本当、妖精みたいだわ」
美月さんが感心したように言った。
「あ……りがとう、ございます……」
メイクも普段あまりしないから……鏡に映る自分の顔が見慣れない……。
「……あら? 変わったメダルね」
美月さんが私の胸元を見て言った。
――楕円形をした、銀のメダル。周囲は蔦の様な模様、中央に薔薇、その周りに古代文字らしき文様が刻まれていた。
「真珠を合わせようかとご提案したのですが、こちらのメダルがいいとおっしゃって……」
「これ、祖母のものだったんです。お守り代わりなので、つけてないと落ち着かなくて……」
「よく似合ってるわよ。雰囲気があって素敵だわ」
その時、社長室の扉が開いて、和也さんが出てきた。
「……美月。用意でき……」
私を見て、ぴたり、と足を止めた。
「……楓?」
「は……はい……」
私は目を見張った。和也さん……ゴージャスとしか、言いようがない……。
黒の礼服に白のドレスシャツ、派手な格好じゃないのに……目が離せない。和也さんも……私の事じっと見てる……。
「はいはい、お互い見とれてないで、準備準備」
美月さんの声に、あわてて視線を逸らす。
「……ありがとう、岡村。相変わらず、いい腕だな」
ふふっと岡村さんが笑う。
「いえいえ、内村様が素敵だからですよ。私はあくまで、彼女の魅力が引き立つように、お手伝いさせていただいただけのこと」
岡村さんが私の方に来て、右手をとった。
「また、いつでもいらして下さいね。お待ちしています」
「ありがとう……ございます……」
岡村さんも、スマートで素敵な人だなあ……さすが、ファッションの専門家は違う。深々とお辞儀をした後、岡村さんは帰っていった。
「……社長。お迎えが来たようですよ?」
美月さんの声に、和也さんは「わかった」と頷き……荷物を持った。
「ほら、行くぞ」
和也さんは……そのまま、すたすたと歩いて行った。私はぺこり、とお辞儀をして、慌ててその後を追った。
***
「……私、リムジンって初めて乗りました……」
座席ふかふか。腰を下ろしたら、沈み込みそうな感じ。こんな高級車で迎えに来るって……和也さんのご親戚って、かなりの富豪、なのかなあ……。
めずらしくて、きょろきょろしてたら、和也さんと目があった。
和也さん、さっきから口数少ないけど……疲れてるのかなあ。ここ数日ずっと夜遅かったし。
すっと和也さんの右手が伸びる。私がつけてる、銀のメダルを手に取った。
「……和也さん?」
「これ……は……」
「おばあちゃんからもらったメダル、です」
「……」
「私が生まれた時に、おばあちゃんが私にくれたもので……」
「……」
「ずっと身につけてる、お守りみたいなものです」
「……ずっと?」
「はい。肌身離さず」
「……」
和也さんは何か、考え込んでる。
「……これと同じ物はあるのか?」
「いいえ。魔女の家系に代々伝わるもので、それぞれの家によって紋章が違うって聞きました。この模様はおばあちゃんの家系のものです」
和也さんが手を離した。そのまま、窓の外を見てる。
「……今日、お前を連れて来るんじゃなかった」
独り言みたいに和也さんが言った。
「え?」
連れて来ない方がよかった……てこと? 私は、ちょっと俯いた。
「わ、私……じゃ、やっぱり見劣りするでしょうか。美月さんみたいに、美人じゃないし……」
「違う!」
え?
顔を上げると、和也さんが睨みつけるように、こちらを見ていた。
「……見せたくないんだ」
「え……」
「……今のお前。他の男に」
ぽかん、と口を開けた私を、和也さんがまた睨みつけた。
(な、なに……っ……)
何だか、すごく不機嫌なんですけど……っ!
和也さんは、ぷい、とまた窓の方を向いた。
……沈黙が続く。
ちら、と和也さんの方を見た。街の明かりが彼の横顔を照らしてる。
綺麗な横顔……。この人の横には、やっぱり美月さんの方が似合うよね……。
ちり……ん
……鈴の音?
メダルを手に取る。なんだか熱い。
(今、鳴った……よね……?)
こんなこと、初めて。何か……の警告?
和也さんは機嫌悪いし、何だか波乱含みな夜になりそう……。私は首をすくめながら、リムジンの窓の外を見ていた。