Fly*Flying*MoonLight
PM6:00 九条邸
「うわ……」
思わず声が洩れた。 ここ……本当に、日本ですかっ!?
ものすごく広い大豪邸。リムジンで綺麗に整備された庭を抜け、玄関先まで送ってもらった。大理石の階段を和也さんと上る。ローマ彫刻の施された柱が立っていた。
盛装したきらびやかな人たちが、次々と広いホールに入っていく。ドラマでしか見たことない光景。
「……いいかげん、口閉じろ」
和也さんの低い声。あ、ぽかんと見とれてた。
「す、すみません。こんな場所、来た事なくて……」
じろっと見下ろされる。な、なんだか首をすくめたくなるんだけど……。
「……これは、和也様。ようこそおいで下さいました」
黒のタキシードを着た、六十歳ぐらいの男性が、和也さんに深々とお辞儀した。
「……久しぶりだな、葉山」
葉山さんが私にもお辞儀をした。私も慌ててお辞儀を返す。
「……私、当九条家の執事をしております、葉山、と申します。どうぞ、お見知りおきを」
「……内村 楓です。よろしくお願いいたします」
穏やかな笑顔。おじいちゃんを思い出すなあ……。私は葉山さんに、にっこりと笑顔を返した。
葉山さんが、じっと私の顔を見た。
「……失礼ですが、内村様はこちらに来られるのは初めて、でいらっしゃいますか?」
「はい、初めて……ですが」
「左様でございますか……」
……葉山さん、何か、考え込んでる……?
「葉山。何か気になるのか?」
和也さんの言葉に、葉山さんは、少し首を振った。
「いえ、私の記憶違いでございましょう。どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」
再び一礼した後、葉山さんは別のお客様に挨拶に行った。
「……」
和也さんは、しばらく葉山さんの方を見ていた。
「和也さん?」
和也さんがはっとしたように、こちらを見た。
「……あちらが会場だ。行くぞ」
足早に和也さんが歩く。私も少し大股歩きで和也さんの後を追った。
***
(ひ、人酔いしたかも……)
私は広い廊下を、ゆっくりと歩いていた。
――パーティー会場はすごい賑わいだった。立食形式で、豪華な食事が所狭しと並べられていた。
和也さんはあちらこちらから、声をかけられてた。私の事を珍しそうに見る人もいたけれど、和也さんが『秘書の美月の代理』って紹介してくれたから、皆一応は納得してくれたみたいだった。
仕事の話で和也さんが捕まったから、ちょっと席を外させてもらって……今に至る。
(あれ……?)
右手にギャラリーみたいな廊下が見えた。人もいないみたいだし、少しあそこで休ませてもらおうかな……。
そう思って、ギャラリーに足を踏み入れた。
人気のない廊下に、見たことある絵画や彫刻が所狭しと並べられていた。みんな本物……だよね?
「すごいコレクション……」
ため息をつきながら見ていた私の目に――見慣れたものが飛び込んできた。
「え!?」
ガラスケースに飾られた、一輪の薔薇。ドライフラワーになってるけど、これ……。
「ムーン・スター・ローズ!?」
花芯が濃いピンクで、外に行くほど白っぽくなる品種。間違いない、これは……。
「どうして、ここに……」
「……お嬢さん、その花をご存じですかな」
はっと振り返ると、萌葱《もえぎ》色の羽織はかまを着た、品の良いおじいさんが一人、立っていた。
「は、はい……」
私はガラスケースを指差して、言った。
「これは、ムーン・スター・ローズという品種です。月の光にかざすと、まるで星の煌めきのように花びらが光る事から、こう名付けられました」
「……」
「この花は……うちにしか、咲いてないはず……」
おじいさんの瞳がきらり、と光った気がした。
「うち……とおっしゃったかの?」
「はい、これは私の祖母が品種改良した薔薇です。一株だけしかできなくて、うちにある株が唯一のはずです」
おじいさんが私の前に、ゆっくりと歩いてきた。
「お嬢さん……もしかして、マリーさんのお孫さんか?」
――マリー。おばあちゃんの名前。
「おばあちゃん……祖母をご存じですか?」
がしっとおじいさんが、私の両手を握った。
「やはり、そうか! こんなところで、マリーさんのお孫さんに会えるとは!」
おじいさんは、嬉しそうに笑った。
「マリーさんには、若い頃、大変お世話になっての。戦時中、外国人への差別が酷くなったのが原因で、故郷に戻られたと聞いていたが……」
おじいさんが愛おしそうに、ガラスケースを見つめた。
「これは、まだ戦争が激しくない頃、マリーさんからいただいたもの。不思議と何十年たっても色褪せない薔薇なのじゃよ」
「ムーン・スター・ローズには、月の魔力が宿る、と祖母が言ってました。きっとそのせいだと思います」
おじいさんがおかしそうに、私を見た。
「あなたも、魔法を使えるのか?」
「え?」
この方、おばあちゃんの事知ってるの!?
「マリーさんは、よく『魔法のスープよ』といって、美味しいスープをご馳走してくださった」
あ、そういう意味……。私はほっとため息をついた。
「魔法のスープなら、私も作れます。おばあちゃん……祖母に教えてもらいました」
おじいさんの手に力が入った。
「私の名は、九条 靖人《くじょう やすと》と言います。お嬢さんのお名前は?」
「内村 楓、です」
「内村……そうか……」
九条さんは、何かぶつぶつと言っていたけれど、また私の目をじっと見た。
「初対面で不躾と思われるかもしれませんが……マリーさんの魔法のスープを、私に作っていただけませんかの」
「え……」
「あのスープの味が忘れられなくて、何度も作ろうとしたのじゃが……どうも、うまく作れなくて。死ぬまでに、もう一度、どうしても味わいたい、と思っていたのです」
そんなにおばあちゃんの事、思っていて下さったんだ……。
「はい、喜んで。ただ、材料がうちにしかないので……」
九条さんが涙ぐんでる……?
「もし、よければ、今すぐにでもご馳走になりたいのですがな」
「え? で、でもパーティーは……」
九条さんは首を振った。
「もう私の出番はないのですよ。挨拶も一通り終わって、ここで休んでいた所ですから」
「あの、和……社長に聞いてみませんと……」
口ごもる私を、九条さんはじっと見ていた。
「……楓さん、とお呼びしてもよろしいかな?」
「はい」
「楓さんは、どなたとここに?」
「S・I・コーポレーションの社長、高橋とです」
九条さんの瞳に、光が宿った。
「ほう……彼と、な」
九条さんがゆっくりと言った。
「いつも彼が連れて来るのは、美月さんとかいう秘書では……」
「美月が怪我をしたので、本日は私が代理で伺いました」
九条さんは手を離し、ふむ、と腕を組んだ。
「高橋社長には、私から連絡しよう。彼もNOとは言うまいて」
「社長とお知り合いなんですか?」
「まあ、長い付き合いになりますがね」
九条さんが手を叩いた。廊下の影からすぐに葉山さんが現れた。
「葉山。高橋社長に、わしが楓さんの家に行った、と伝えてくれるかの」
葉山さんが頭を下げた。
「かしこまりました。お伝えいたします。車をこちらに回しておきますので」
「頼んだぞ」
そういえば、葉山さん、ここ九条邸って言ってなかったっけ?
「あの……」
九条さんは、にやり、といたずらっぽく笑った。あ、いじわるする時の和也さんに似てる。
「ちょっと彼には、いろいろ恨みがありましてな。驚かせてやりますわい」
「やっぱり、私から言った方が……」
九条さんが首を振った。
「楓さんが言ったところで、結果は同じ、ですよ。まあ、彼もすぐ後を追って来るでしょう」
九条さんが、私の右腕に自分の左腕を絡ませた。
「さっ、案内して頂けますか? マリーさんの家へ」
「は……い……」
和也さん、大丈夫かなあ……。葉山さんが伝えてくれるって言ったから、心配ないとは思うけど……。
『見せたくない』
和也さんの言葉が胸に浮かんだ。それだったら、あまり会場をうろちょろしてない方がいいかしら……。
そう思いながら、九条さんを見た。瞳がうれしそうにキラキラしてる。
こんなに楽しみにされてるんだったら……願いを叶えてあげたい。私はそう思った。
――少し迷いながらも、九条さんに引っ張られて、私は庭に停めたリムジンに乗り込んだ。
***
……楓は?
仕事の話に捕まっている間に、すっかり見失ってしまった。白い妖精を探す。見当たらない。
……あいつ、どこかで誰かに言い寄られたりしてないか!?
今日の楓は、本当に綺麗、だった。儚げな感じが、本物の妖精のようで……自分だけのものにしたくなった。
その気持ちを抑えるために、わざと距離を置いていたら、この始末だ。
……会場内にはいないようだな。この屋敷、広いから迷ってるのか?
足早に会場から出たところで、声をかけられた。
「……和也様」
俺に向かって頭を下げる、葉山の姿があった。
「葉山。ちょうどよかった」
「……内村様の事でございますね」
「な……」
葉山が、少しすまなさそうな顔をした。
「申し訳ございません、和也様。実は……」
「……楓の家に行った!?」
「はい……どうしても、と駄々をこねられまして……」
あのじじい、何を……!
葉山がこほん、と咳をした。
「その……内村様は、旦那様の初恋の女性のお孫さん、でいらっしゃって……」
「楓が!?」
「はい……内村様を、大層お気に召されたようでした」
「……」
怒りがふつふつと沸いてきた。
「……すぐに失礼する。車を回してくれ」
「かしこまりました」
葉山が一礼して立ち去る。俺も玄関へと早足で向かった。
思わず声が洩れた。 ここ……本当に、日本ですかっ!?
ものすごく広い大豪邸。リムジンで綺麗に整備された庭を抜け、玄関先まで送ってもらった。大理石の階段を和也さんと上る。ローマ彫刻の施された柱が立っていた。
盛装したきらびやかな人たちが、次々と広いホールに入っていく。ドラマでしか見たことない光景。
「……いいかげん、口閉じろ」
和也さんの低い声。あ、ぽかんと見とれてた。
「す、すみません。こんな場所、来た事なくて……」
じろっと見下ろされる。な、なんだか首をすくめたくなるんだけど……。
「……これは、和也様。ようこそおいで下さいました」
黒のタキシードを着た、六十歳ぐらいの男性が、和也さんに深々とお辞儀した。
「……久しぶりだな、葉山」
葉山さんが私にもお辞儀をした。私も慌ててお辞儀を返す。
「……私、当九条家の執事をしております、葉山、と申します。どうぞ、お見知りおきを」
「……内村 楓です。よろしくお願いいたします」
穏やかな笑顔。おじいちゃんを思い出すなあ……。私は葉山さんに、にっこりと笑顔を返した。
葉山さんが、じっと私の顔を見た。
「……失礼ですが、内村様はこちらに来られるのは初めて、でいらっしゃいますか?」
「はい、初めて……ですが」
「左様でございますか……」
……葉山さん、何か、考え込んでる……?
「葉山。何か気になるのか?」
和也さんの言葉に、葉山さんは、少し首を振った。
「いえ、私の記憶違いでございましょう。どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」
再び一礼した後、葉山さんは別のお客様に挨拶に行った。
「……」
和也さんは、しばらく葉山さんの方を見ていた。
「和也さん?」
和也さんがはっとしたように、こちらを見た。
「……あちらが会場だ。行くぞ」
足早に和也さんが歩く。私も少し大股歩きで和也さんの後を追った。
***
(ひ、人酔いしたかも……)
私は広い廊下を、ゆっくりと歩いていた。
――パーティー会場はすごい賑わいだった。立食形式で、豪華な食事が所狭しと並べられていた。
和也さんはあちらこちらから、声をかけられてた。私の事を珍しそうに見る人もいたけれど、和也さんが『秘書の美月の代理』って紹介してくれたから、皆一応は納得してくれたみたいだった。
仕事の話で和也さんが捕まったから、ちょっと席を外させてもらって……今に至る。
(あれ……?)
右手にギャラリーみたいな廊下が見えた。人もいないみたいだし、少しあそこで休ませてもらおうかな……。
そう思って、ギャラリーに足を踏み入れた。
人気のない廊下に、見たことある絵画や彫刻が所狭しと並べられていた。みんな本物……だよね?
「すごいコレクション……」
ため息をつきながら見ていた私の目に――見慣れたものが飛び込んできた。
「え!?」
ガラスケースに飾られた、一輪の薔薇。ドライフラワーになってるけど、これ……。
「ムーン・スター・ローズ!?」
花芯が濃いピンクで、外に行くほど白っぽくなる品種。間違いない、これは……。
「どうして、ここに……」
「……お嬢さん、その花をご存じですかな」
はっと振り返ると、萌葱《もえぎ》色の羽織はかまを着た、品の良いおじいさんが一人、立っていた。
「は、はい……」
私はガラスケースを指差して、言った。
「これは、ムーン・スター・ローズという品種です。月の光にかざすと、まるで星の煌めきのように花びらが光る事から、こう名付けられました」
「……」
「この花は……うちにしか、咲いてないはず……」
おじいさんの瞳がきらり、と光った気がした。
「うち……とおっしゃったかの?」
「はい、これは私の祖母が品種改良した薔薇です。一株だけしかできなくて、うちにある株が唯一のはずです」
おじいさんが私の前に、ゆっくりと歩いてきた。
「お嬢さん……もしかして、マリーさんのお孫さんか?」
――マリー。おばあちゃんの名前。
「おばあちゃん……祖母をご存じですか?」
がしっとおじいさんが、私の両手を握った。
「やはり、そうか! こんなところで、マリーさんのお孫さんに会えるとは!」
おじいさんは、嬉しそうに笑った。
「マリーさんには、若い頃、大変お世話になっての。戦時中、外国人への差別が酷くなったのが原因で、故郷に戻られたと聞いていたが……」
おじいさんが愛おしそうに、ガラスケースを見つめた。
「これは、まだ戦争が激しくない頃、マリーさんからいただいたもの。不思議と何十年たっても色褪せない薔薇なのじゃよ」
「ムーン・スター・ローズには、月の魔力が宿る、と祖母が言ってました。きっとそのせいだと思います」
おじいさんがおかしそうに、私を見た。
「あなたも、魔法を使えるのか?」
「え?」
この方、おばあちゃんの事知ってるの!?
「マリーさんは、よく『魔法のスープよ』といって、美味しいスープをご馳走してくださった」
あ、そういう意味……。私はほっとため息をついた。
「魔法のスープなら、私も作れます。おばあちゃん……祖母に教えてもらいました」
おじいさんの手に力が入った。
「私の名は、九条 靖人《くじょう やすと》と言います。お嬢さんのお名前は?」
「内村 楓、です」
「内村……そうか……」
九条さんは、何かぶつぶつと言っていたけれど、また私の目をじっと見た。
「初対面で不躾と思われるかもしれませんが……マリーさんの魔法のスープを、私に作っていただけませんかの」
「え……」
「あのスープの味が忘れられなくて、何度も作ろうとしたのじゃが……どうも、うまく作れなくて。死ぬまでに、もう一度、どうしても味わいたい、と思っていたのです」
そんなにおばあちゃんの事、思っていて下さったんだ……。
「はい、喜んで。ただ、材料がうちにしかないので……」
九条さんが涙ぐんでる……?
「もし、よければ、今すぐにでもご馳走になりたいのですがな」
「え? で、でもパーティーは……」
九条さんは首を振った。
「もう私の出番はないのですよ。挨拶も一通り終わって、ここで休んでいた所ですから」
「あの、和……社長に聞いてみませんと……」
口ごもる私を、九条さんはじっと見ていた。
「……楓さん、とお呼びしてもよろしいかな?」
「はい」
「楓さんは、どなたとここに?」
「S・I・コーポレーションの社長、高橋とです」
九条さんの瞳に、光が宿った。
「ほう……彼と、な」
九条さんがゆっくりと言った。
「いつも彼が連れて来るのは、美月さんとかいう秘書では……」
「美月が怪我をしたので、本日は私が代理で伺いました」
九条さんは手を離し、ふむ、と腕を組んだ。
「高橋社長には、私から連絡しよう。彼もNOとは言うまいて」
「社長とお知り合いなんですか?」
「まあ、長い付き合いになりますがね」
九条さんが手を叩いた。廊下の影からすぐに葉山さんが現れた。
「葉山。高橋社長に、わしが楓さんの家に行った、と伝えてくれるかの」
葉山さんが頭を下げた。
「かしこまりました。お伝えいたします。車をこちらに回しておきますので」
「頼んだぞ」
そういえば、葉山さん、ここ九条邸って言ってなかったっけ?
「あの……」
九条さんは、にやり、といたずらっぽく笑った。あ、いじわるする時の和也さんに似てる。
「ちょっと彼には、いろいろ恨みがありましてな。驚かせてやりますわい」
「やっぱり、私から言った方が……」
九条さんが首を振った。
「楓さんが言ったところで、結果は同じ、ですよ。まあ、彼もすぐ後を追って来るでしょう」
九条さんが、私の右腕に自分の左腕を絡ませた。
「さっ、案内して頂けますか? マリーさんの家へ」
「は……い……」
和也さん、大丈夫かなあ……。葉山さんが伝えてくれるって言ったから、心配ないとは思うけど……。
『見せたくない』
和也さんの言葉が胸に浮かんだ。それだったら、あまり会場をうろちょろしてない方がいいかしら……。
そう思いながら、九条さんを見た。瞳がうれしそうにキラキラしてる。
こんなに楽しみにされてるんだったら……願いを叶えてあげたい。私はそう思った。
――少し迷いながらも、九条さんに引っ張られて、私は庭に停めたリムジンに乗り込んだ。
***
……楓は?
仕事の話に捕まっている間に、すっかり見失ってしまった。白い妖精を探す。見当たらない。
……あいつ、どこかで誰かに言い寄られたりしてないか!?
今日の楓は、本当に綺麗、だった。儚げな感じが、本物の妖精のようで……自分だけのものにしたくなった。
その気持ちを抑えるために、わざと距離を置いていたら、この始末だ。
……会場内にはいないようだな。この屋敷、広いから迷ってるのか?
足早に会場から出たところで、声をかけられた。
「……和也様」
俺に向かって頭を下げる、葉山の姿があった。
「葉山。ちょうどよかった」
「……内村様の事でございますね」
「な……」
葉山が、少しすまなさそうな顔をした。
「申し訳ございません、和也様。実は……」
「……楓の家に行った!?」
「はい……どうしても、と駄々をこねられまして……」
あのじじい、何を……!
葉山がこほん、と咳をした。
「その……内村様は、旦那様の初恋の女性のお孫さん、でいらっしゃって……」
「楓が!?」
「はい……内村様を、大層お気に召されたようでした」
「……」
怒りがふつふつと沸いてきた。
「……すぐに失礼する。車を回してくれ」
「かしこまりました」
葉山が一礼して立ち去る。俺も玄関へと早足で向かった。