Fly*Flying*MoonLight

PM2:45 非常階段~一階

 風が身体を包みこんでいる。

 下へ下へ下へ……ゆっくりと落ちていく。

 炎が巻き付いてこようとした次の瞬間、風が渦を巻いた。

 炎が薙ぎ払われる。

 風が……守ってくれて、いる……?

 ……楓、の魔法だ。

(く……そ……)

 身体が、痺れて……動か……ない……

 二階付近まで降りた時――
「……っ!」
 楓が苦しそうに呻いた。

 バランスが崩れる。風が――拡散する。

 ――落ちる!

(楓……っ!!)

俺は咄嗟に、楓の身体を上に抱き抱えた。

***

 何か、が割れる音が耳に響いた。

(……しまっ……集中が切れて……)

 くぐもった、うめき声。
「……和也さんっ!?」
(私……和也さんの上にいるっ!?)
 ……和也さんがはがれた床の上に倒れていた。
「……な……いか……」
 和也さんが……手を伸ばした。その手を掴む。
「怪我……ない、か……」

 私……をかばっ……て……?

 炎が龍となって襲ってきた。
「風よ、盾となって、我らの身を守れっ!」
 もう少しで届く火の手が、方向を変えた。和也さんの上半身を起こす。
「大丈夫……ですかっ……!?」
 ほんの少し、和也さんが頷いた。左肩を押さえてる。

 キィィィィィ……ン……!!

「……!!」
 音が、私を、捕えた。

「う、ぁぁあ……っ!!」
 血が、全身を逆流するみたいな痛み。高音の耳障りな音。耳をふさぐ。身体が崩れ落ちる。身体を丸めて、全身を這う痛みと痺れに耐える。
「楓!?」
 和也さんの声。
「あ、あああ……っ!」 

 力……使い、過ぎた……っ……

 頭が割れる。息が荒くなる。
 ――おばあちゃん!!


『……楓。あなたは、私と同じ、いいえそれ以上の魔力の持ち主』
『でもね、あなたの身体は3/4が人間』
『無理に力を使うと……』


 痛い。身体がちぎれそう……っ……!


『魔力が暴走するわ。そうなったら……』


「楓、楓っ!」
 肩を掴む、和也さんの手。痛みで意識が薄れる。
(……だめ。ここで暴走したらっ……!)


『……もう、あなたには、止められない』


 和也さん……を……巻き込んで……しま、う……っ……

 炎が勢いを増す。向こうの天井が崩れ落ちた。

「か、ず……」
 ――だめ、私から、離れて。
「楓っ!」
 和也さんが私を抱きしめる。
 だめ……このまま……じゃ……

 心が白に染まっていく。全てが無に返り始める。

 ……私は、ありったけの意識をかき集めて……

 ……手を伸ばし

 ……和也さんに、キスをした。
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