Fly*Flying*MoonLight
*** 一週間後 AM9:00 秘書室
「……伶子。その腕、どうした?」
白いギプス。左の肘から手先まで覆われている。
「ちょっと、ドジしちゃって……」
はあ、と伶子がため息をついた。
「……ごめんなさい。今日、パーティーでしょ? これじゃ……」
「別に、俺一人でも構わないぞ。どうせ親戚連中の集まりだし」
「そういう訳にも、いかないでしょ? 仕事の話だってあるんだし……」
あなた一人じゃ、すぐに飢えた狼女に狙われるわよ、と伶子が言う。
……ん?
一瞬、伶子の瞳がきらりと光った、ように見えた。
「……内村さん。あの子、どうかしら?」
「え?」
楓?
「あなたとも、随分親しいようだし?」
ふふふっと伶子が笑う。
……親しい、か。
――一緒に暮らし始めて一週間。
……楓が変わった様子、は見事にない。
いつもと同じようにしてる、ようにしか見えない。
……変わったとしたら、俺の方だ。
眠りが浅く、疲れが残っていた身体は、熟睡できるようになって、楽になった。
食事も楓が作ってくれるから、ちゃんと食べるようになった。
……それに……
『……おかえりなさい』
その言葉が聞きたくて、仕事切り上げて早めに帰ってるような気がする。
はあ、と俺はため息をついた。
「親しい……というわけでもない」
……楓にとっては。
伶子の右眉が上がる。
「……本当すごいわね、内村さん」
あなたにそんな表情させるなんてねえ……と伶子が呟く。
「とりあえず、彼女に頼んでみるわよ? それでいい?」
「……わかった」
楓がドレスアップした姿……はまだ見た事が無い。会社では地味目なスカート姿で、家でも以下同文、だしな。
楓が着飾ったら、どんな風になるんだろう。
……そんな事を思いながら、俺は仕事に戻った。
*** PM5:00 秘書室
「……美月。用意でき……」
秘書室へのドアを開けた俺は、その場で固まった。
「……楓?」
「は、はい……」
楓が恥ずかしそうに返事をした。
……妖精!?
俺は目を見張った。元々楓は可愛らしかったが……これは……。
長い髪が白のドレスに映える。儚げな少女の様な……。
……綺麗……だ……。
「はいはい、お互い見とれてないで、準備準備」
……美月の声に、我に返った。
岡村に礼を言うと、いつものように楓の手を取って挨拶をしていた。
……美月だと平気なのに、楓だとむっとするのは何故だ……。
……ちょっと待て。
(この姿の楓をあのパーティーに連れて行く……のか!?)
……嫌だ。見せたくない。他の男に。
急に湧きあがってきた感情にびっくり、した。
俺は……もやもやした気持ちのまま、リムジンに乗り込んだ。
*** PM5:30 リムジンの中
静かなリムジンの中
――楓は落ち着かない様子、だった。
(……え……?)
俺は楓の胸元を見た。銀色に光るメダル。
(あれは……)
思わず手を伸ばした。この模様……
(俺の……メダルと、同じ……!?)
「これ……は……」
楓が言葉を続ける。
「おばあちゃんからもらったメダル、です」
「……」
「私が生まれた時に、おばあちゃんが私にくれたもので……」
「……」
「ずっと身につけてる、お守りみたいなものです」
同じ模様。やはり楓は『彼女』と関係がある。
あのスープも、このメダルも、『彼女』を指してる。
……だが、楓のメダルは『完全な形』だ。『彼女』なら……
「……これと同じ物はあるのか?」
そう、楓に聞いた。
「いいえ。魔女の家系に代々伝わるもので、それぞれの家によって紋章が違うって聞きました。この模様はおばあちゃんの家系のものです」
(……)
多分、楓の母親が『彼女』と考えるのが妥当、なのだろう。
だが……
『両親は私が物心つく前に亡くなりました』
育ててくれた祖父母ももういない、そう言った。
……もう、確かめる事はできない。
……そう思いながら、俺は横目で楓を見た。
この姿を見て、綺麗だと思う奴は、多分俺だけじゃない。
……そう思うと、腹が立ってきた。
「……今日、お前を連れて来るんじゃなかった」
つい、本音が漏れた。
「え?」
楓の目が丸くなる。何とも言えない顔をして、ちょっと俯いた。
「わ、私……じゃ、やっぱり見劣りするでしょうか。美月さんみたいに、美人じゃないし……」
「違う!」
咄嗟に言葉が出た。見劣りする!? 何考えてる、こいつはっ!!
こっちは必死に気持ちを抑えようとしてるっていうのに……っ!!
驚いたような楓に、俺は言った。
「……見せたくないんだ」
「え……」
「……今のお前。他の男に」
楓は……ぽかん、と口を開けてる。
ここまで言っても、何も分かってなさげな楓を揺さぶりたいのか、キスして可愛く開いた口を塞ぎたいのか、わからなくなってきた。
ふい、と俺は楓から窓の外に視線を逸らした。
街の明かりが車の中に入ってくる。
……目が離せないって感じで見てたら、すぐにバレるわよ?
伶子の言葉を思い出した。はあ、とため息をつく。
今夜は忍耐力が試されそうだ……。
そんな事を思った。
「……伶子。その腕、どうした?」
白いギプス。左の肘から手先まで覆われている。
「ちょっと、ドジしちゃって……」
はあ、と伶子がため息をついた。
「……ごめんなさい。今日、パーティーでしょ? これじゃ……」
「別に、俺一人でも構わないぞ。どうせ親戚連中の集まりだし」
「そういう訳にも、いかないでしょ? 仕事の話だってあるんだし……」
あなた一人じゃ、すぐに飢えた狼女に狙われるわよ、と伶子が言う。
……ん?
一瞬、伶子の瞳がきらりと光った、ように見えた。
「……内村さん。あの子、どうかしら?」
「え?」
楓?
「あなたとも、随分親しいようだし?」
ふふふっと伶子が笑う。
……親しい、か。
――一緒に暮らし始めて一週間。
……楓が変わった様子、は見事にない。
いつもと同じようにしてる、ようにしか見えない。
……変わったとしたら、俺の方だ。
眠りが浅く、疲れが残っていた身体は、熟睡できるようになって、楽になった。
食事も楓が作ってくれるから、ちゃんと食べるようになった。
……それに……
『……おかえりなさい』
その言葉が聞きたくて、仕事切り上げて早めに帰ってるような気がする。
はあ、と俺はため息をついた。
「親しい……というわけでもない」
……楓にとっては。
伶子の右眉が上がる。
「……本当すごいわね、内村さん」
あなたにそんな表情させるなんてねえ……と伶子が呟く。
「とりあえず、彼女に頼んでみるわよ? それでいい?」
「……わかった」
楓がドレスアップした姿……はまだ見た事が無い。会社では地味目なスカート姿で、家でも以下同文、だしな。
楓が着飾ったら、どんな風になるんだろう。
……そんな事を思いながら、俺は仕事に戻った。
*** PM5:00 秘書室
「……美月。用意でき……」
秘書室へのドアを開けた俺は、その場で固まった。
「……楓?」
「は、はい……」
楓が恥ずかしそうに返事をした。
……妖精!?
俺は目を見張った。元々楓は可愛らしかったが……これは……。
長い髪が白のドレスに映える。儚げな少女の様な……。
……綺麗……だ……。
「はいはい、お互い見とれてないで、準備準備」
……美月の声に、我に返った。
岡村に礼を言うと、いつものように楓の手を取って挨拶をしていた。
……美月だと平気なのに、楓だとむっとするのは何故だ……。
……ちょっと待て。
(この姿の楓をあのパーティーに連れて行く……のか!?)
……嫌だ。見せたくない。他の男に。
急に湧きあがってきた感情にびっくり、した。
俺は……もやもやした気持ちのまま、リムジンに乗り込んだ。
*** PM5:30 リムジンの中
静かなリムジンの中
――楓は落ち着かない様子、だった。
(……え……?)
俺は楓の胸元を見た。銀色に光るメダル。
(あれは……)
思わず手を伸ばした。この模様……
(俺の……メダルと、同じ……!?)
「これ……は……」
楓が言葉を続ける。
「おばあちゃんからもらったメダル、です」
「……」
「私が生まれた時に、おばあちゃんが私にくれたもので……」
「……」
「ずっと身につけてる、お守りみたいなものです」
同じ模様。やはり楓は『彼女』と関係がある。
あのスープも、このメダルも、『彼女』を指してる。
……だが、楓のメダルは『完全な形』だ。『彼女』なら……
「……これと同じ物はあるのか?」
そう、楓に聞いた。
「いいえ。魔女の家系に代々伝わるもので、それぞれの家によって紋章が違うって聞きました。この模様はおばあちゃんの家系のものです」
(……)
多分、楓の母親が『彼女』と考えるのが妥当、なのだろう。
だが……
『両親は私が物心つく前に亡くなりました』
育ててくれた祖父母ももういない、そう言った。
……もう、確かめる事はできない。
……そう思いながら、俺は横目で楓を見た。
この姿を見て、綺麗だと思う奴は、多分俺だけじゃない。
……そう思うと、腹が立ってきた。
「……今日、お前を連れて来るんじゃなかった」
つい、本音が漏れた。
「え?」
楓の目が丸くなる。何とも言えない顔をして、ちょっと俯いた。
「わ、私……じゃ、やっぱり見劣りするでしょうか。美月さんみたいに、美人じゃないし……」
「違う!」
咄嗟に言葉が出た。見劣りする!? 何考えてる、こいつはっ!!
こっちは必死に気持ちを抑えようとしてるっていうのに……っ!!
驚いたような楓に、俺は言った。
「……見せたくないんだ」
「え……」
「……今のお前。他の男に」
楓は……ぽかん、と口を開けてる。
ここまで言っても、何も分かってなさげな楓を揺さぶりたいのか、キスして可愛く開いた口を塞ぎたいのか、わからなくなってきた。
ふい、と俺は楓から窓の外に視線を逸らした。
街の明かりが車の中に入ってくる。
……目が離せないって感じで見てたら、すぐにバレるわよ?
伶子の言葉を思い出した。はあ、とため息をつく。
今夜は忍耐力が試されそうだ……。
そんな事を思った。