Fly*Flying*MoonLight

PM10:30 和也さんの家

「……入れよ。すぐ荷物持ってくるから」
「は……い……」

 会社のすぐ近くにある、高層マンション。しかも最上階のペントハウス。モノトーン風にまとめられた家具に、夜景が見える大きな窓。大きな液晶テレビに高級そうなソファ。
(ポスター写真に出てきそうな部屋……)
 ……家賃、一体いくら……!?
 思わず、そんなことを考えていたら、いつの間にか、和也さんが目の前に立っていた。

「……ここ、どう思う?」
「は?」

 唐突な質問。私は和也さんを見上げた。和也さんは……無表情だった。

「……冷たい、です」
 思わず本音がこぼれた。綺麗で、整頓されていて、高級感あふれてて……

 ……でも、
 まるで体温が感じられない。モデルハウスみたいな感じ。生活感がないっていうか……。

 和也さんは、黙ったまま、私を見た。
「私は……ここには、住めません。こんな温度の無い、部屋には」
「……」

 和也さんに、突然ぎゅっと抱きしめられた。
「えっ!?」
 大きな胸。力強い腕。頬にかああっと血が上る。
(なになになになにっ!?)
 びっくりしすぎて、身体が硬直した。和也さんの心臓の音が……聞こえる。

「……俺も、そう、思ってた」
 ぽつり、と彼が言う。
 ……え……?
「だから……人恋しくなるのかもな……」
「あ、あの……?」

 和也さんが手を離す。足元に置いてあった、スーツケースを手に持った。
「……案内してくれ。魔法の家へ」
「は、はい……」

 ……何だろう、今の……。
 なんだか……小さい子みたいな感じがした。守ってもらいたくて……でも、誰もいなくて……。
(こんな大きい人が、まさかね……)
 私と和也さんは、マンションを後にし、和也さんが運転する外車(私には名前わからないし)で、我が家に向かった。
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