この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
伊東乙女は、女子の先輩剣道部員の逆恨みによって、暴行を受けて長期間入院生活を余儀無くされた。
入学して間もない頃、保田奈美子の意中の男子に告白された。
丁重に断った筈だったのに、その男は振られた事を認めようとせず、伊東と交際していると吹聴して回った。
やがて保田奈美子の耳に入り、一方的に逆恨みされ集団でリンチされてしまったのだ。
そう言った経緯からようやく回復して、2学期始業式から10日過ぎた今日、伊東乙女は学校へ来た。
乙女は現在剣道部が無期限の活動停止になっている事に驚き、職員室で事情を聞いていた。
教師の話からすると、残った剣道部員は数人しか居らず、道場使用許可をとって、有志の練習を続けていると言うことだった。
実際はどうなっているのか、親友の瀬戸に話すと、一緒に剣道場に行ってあげると言う。
そして二人は剣道場にやって来たのだった。
「乙女ちゃん。退院おめでとう!」
遙は乙女に飛び付く。
「あ、うん。ありがとう・・・。で、どうしたの剣道部?」
「うん・・・。。色々あってさ・・・。」
「大体の事は聞いていたけど、部員の殆んどは戻って来なかったんだね。」
60人近く居た部員が今や4人しかいない。
乙女は数ヵ月の間で浦島太郎状態だった。
遙が乙女に聞く。
「乙女、保田先輩の事聞いてる?」
「うん。病院で・・・。」
乙女はうつ向きながら言う。
「いくら暴力を振るわれた先輩でも、酷すぎるよ・・・。あんな最後・・・。」
二人は黙り込んだ。
「あ、あの・・・。」
二人の沈黙を破ったのは瀬戸未来だった。
ふと我に返った二人。
乙女が遙に紹介する。
「こちら瀬戸未来ちゃん。確か、高柳君と平賀君と同じクラスの。」
「初めましてじゃないよね。又四郎が入院していた時に会ったもんね。」
「う、うん。」
頷いた未来は唐突に遙に言う。
「私も剣道部に入りたいんだけれど。」
「えっ?ほ、本当に?」
遙は驚いた。
「うん。前々から言おうと思っていたんだけれど、あの事件を切っ掛けに剣道に興味が湧いて、真剣にやってみたくなったんだ。」
未来は続ける。
「それで、乙女が復帰するって話を聞いて是非やりたいなって思って。」
遙は笑顔で答えた。
「そっか。ありがとうね、未来ちゃん。大歓迎だよ!」
遙は乙女にも言う。
「乙女も勿論だよね!」
「うん。調子を整えながらやりたいかな。」
「やった!女子部員が一気に増えた!!」
遙はとても嬉しかった。
少しずつではあるが、同好会が前進している。
それが嬉しかった。
「良かったな、遙殿。」
又四郎も満足そうに言う。
ふと未来を見て一言。
「委員長。大変だぞ。」
「べ、別に平気よ!心配ないから!」
プイッと顔を赤らめてソッポを向く。
「彼が又四郎君?」
乙女が遙に聞く。
「うん。又四郎と、沖田君と、平賀君の男子部員3人。」
乙女は金髪ツインテールを指でいじりながら、3人を見る。
「男子も女子も、団体戦にはまだ出られないね・・・。」
因みに、乙女は日本人とフランス人のクォーターである。
あまりにも色白で美貌のため、勘違いする男子も多い。
「で、この金髪女は異国の騎士とか言う種族か?」
不意に又四郎が乙女に向かって言う。
「なっ!?金髪女!?乙女よ乙女!大和撫子よ!!」
「ぷぷ・・・。大和撫子・・・。自分で言うんだ・・・。」
未来は思わず笑ってしまった。
遙も笑う。
「な、なによあんたたち!!」
皆は笑いながら道場に入っていった。