この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。



沖田は何故か、練習に参加しない。


見学と言うよりも、又四郎の動きを観察していた。



腕の良い外科医の息子である沖田総一は、自然に、又四郎の並外れた運動能力と、筋力の使い方、呼吸の深さなどを観察していた。



沖田は非凡である。


学習能力に非常に長け、一度の学習で殆んどを理解した。


運動神経においても、あらゆるスポーツに才能を発揮していた。


しかし、ある時余りにも同級生や、周りの子供達との違いすぎる差に気が付いた沖田は、一切の交遊関係を絶ち切った。


学校にも必要以外は行かず、スポーツも一切やらなかった。


そんな時に出会ったのが伯父が所有していた膨大な量の探偵小説だった。

沖田は寝る間を惜しんでひたすら読み耽り、その世界の中に浸りきっていた。


探偵小説を読む事と同時に、剣術や古武術にも強い関心を持った。


元々沖田は小さい頃体が弱く、体質改善の一環に剣道をやっていた。


非凡なため、早くから才能を開花させていたが、周りに沖田と同等に闘える者が居なかったため、一人研鑽を積んだ。

試合やクラブに参加せず、ひたすら剣道の稽古を行い、唯一自分で続けようと決めた好きなスポーツになった。



そうこう過ごしている内に、沖田は高校生になった。




ある日、病院に奇妙な患者が運び込まれて来る。


肩の骨を砕かれ、入院して来た患者は、噂で15歳の高校生にやられたと言う。


その話を聞いた沖田は、怪我を負わせた同じ歳の高校生に強い関心を持った。



関心は悪意ではなく、あくまで純粋な興味。


高校一年生が、巷で噂の武闘派ヤクザを病院送りにしたのだから。


沖田にとって、同じ歳の人間に興味を持つのは初めての事だった。


色々と調べる内に又四郎は同じ高校に通う同級生である事。


小野遙のいとこである事。


毎晩神社で素振を行っている事などが、調べていく内に解った。


そして更に情報を集める内に、遙と又四郎のまるで空想の物語を生きているような日常に、より強い興味を抱いていた。


市井カナがたまたま部活の帰りに、神社を通り掛かったあの日、沖田は又四郎と話をしようと神社に向かう所だった。


そして何の因果か、あの又四郎襲撃事件に巻き込まれる。



結果又四郎は、沖田に本で記される非日常な劇的を与えてくれる、得難いトラブルメーカーとして、一緒に過ごすようになった。





平賀が必死で又四郎に挑んでいく。


又四郎は竹刀すら鳴らさず全てをかわす。


隙を見せる度に平賀を打ち据える。


動きは剣道のそれなのだが、気迫は戦闘のようだった。




「又四郎。ちょっと良いかな。」


二人の稽古を止めて、沖田は平賀にアドバイスをする。



「あ、解った。やってみる!」



沖田は平賀の動きも見ていて無駄の無いよう指摘する。



しかし、又四郎はその変化した動きに対応して、すぐに戦い方を変える。


沖田はその都度また考える。

平賀の稽古だが、沖田も実質思考で稽古していた。



ひとしきり平賀が参ってくると休憩を取った。




「あ〜っ、全然又四郎君に当てられないよ・・・。」



「平賀君。君は実際強くなっているよ。前と比べて体幹がかなり出来てきているよ。」



「そ、そうかな・・・。全然実感が湧かないんだけど・・・。」


「沖田君は又四郎君と稽古とかしないの?」



「うん。もう少し見学してからにするよ。」




道場の半面では遙達が稽古を行っている。



沖田は何故か遙に、遠い視線を向ける時がたまにあった。


< 103 / 130 >

この作品をシェア

pagetop