この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
半ば強引に文化祭の話は進む。
一緒に暮らす遙と又四郎についても、少なからず文化祭の配役は影響していたが、事、又四郎にとっては沖田との真剣勝負に相当ウェイトが置かれていた。
又四郎の剣客としての勘である。
かなり熱い闘いが期待できるワクワク感が、又四郎を奮い起たせた。
沖田も、生きてきた短い人生で、初めて同じ年齢の少年に本気で挑む事ができる嬉しさに、自然と笑みがこぼれた。
二人とも、意識をしていないようにしていても、持つ者の宿命と言うか、惹かれ合う波長とでも言うべきか、それは次第に絡み合い、ぶつかり合い、一つになり昇華されていく。
今の彼等は、その淵に立ったに過ぎないにしても、現代の天才剣士と過去の天才剣士が同じ淵に立った事に、何かが生まれる可能性が大いに期待できるのである。
剣道同好会の面々は、練習の後、殺陣を考える。
主に指示を出すのは沖田で、アクロバティックな動きをするのは又四郎だった。
平賀と瀬戸は倒されていく四人の動きに合わせて切る練習をする。
簡単に言えば、逆再生される映像を作る作業だ。
又四郎に忍者について話を聞くと、爆笑された。
現代の我々が持つイメージは、いわゆる黒装束に頭巾と、背中に背負う刀と言うイメージだ。
だが、又四郎曰く実際の忍者と言うのは我々と全く変わらない格好で、人に化けると言う。
実際、又四郎が接触をした藩の忍びも、着流しを着た我々と変わらない格好だった。
そんな装束姿では目立ってダメだと笑う。
しかし、イメージは黒装束に頭巾と決まっている現代の高校生は、その衣装を瀬戸が作り、文化祭で着る事に成った。
密かに、お色気くの一衣装を期待していた平賀と沖田は、落胆した。
一部は、客席から登場して、戦いながらステージに上がる。
そこでクライマックスの殺陣を演じる。
それで決まった。
問題は二部である。
袖に捌けて、直ぐに着替えて芝居に入る。
その芝居の台詞は大まかに決めるも、勝敗がハッキリ決まっていないため、後半はアドリブになる。
不安要素が満載の内容になってしまう。
「もう、アレだよ。二部は勢いと勝った方のドラマチックなアドリブの台詞で、まとめるしか無いよ。」
平賀は苦渋の選択をする。
又四郎と、沖田は自分達の勝負で頭が一杯なため、遙との最後まで考えては居ない。
平賀は出たとこ勝負しかないと、腹を括っていた。
剣道同好会の苦悩は続く。
文化祭まで2週間。