この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。



文化祭まで1週間を切ると、カナも遙も忙しいようで、又四郎と3人で登校する事も無くなった。

又四郎は、不慣れながら電車に乗って一人で登校出来るようになった。



又四郎は早朝から公園へ相変わらず素振りに出掛けているが、公園から帰宅すると朝食だけが用意され、遙は先に登校していた。



「又四郎?昨日は遙と何かあったんか?」


食パンをかじりながら忠明は又四郎に訪ねる。


「ん?別に何も無い。」

「そっか?なんか、今朝の遙、妙にソワソワしてたからな。」


「ソワソワ?はて・・・。」


「嬉しそうと言うか、楽しそうと言う感じ?かな・・・。」


「うむ・・・。」


又四郎はそれ以上何も言わなかった。



「おっと、早く支度しろ又四郎!急がないと遅れるぞ。」


「そ、そうだな。」



二人はそそくさと支度をして、家を出ていく。




文化祭まで5日を切った学校は、昼間から準備一色になる。


片付け迄を含んだ7日間が、1年で最も学校が賑やかになる。


剣道同好会の面々も、クラスの準備が片付き次第集まり、殺陣の練習に入る。


とにもかくにも、学生は時間が足りないのを惜しみつつ、文化祭の準備をする。
クタクタに疲れ果てるが、その充実感はなかなか普段の学校生活で味わえる物ではない。





「じゃあ、1日目午前中の受付は、高柳君と瀬戸さんの二人にお願いします。」

「二人は昼食を取った後、高柳君は落武者。瀬戸さんは井戸から出てくる幽霊の役を2時までやってもらって、剣道同好会のステージがある2日目はフリーです。」

「同じく平賀くんは、1日目の裏方のメンテナンス班をお願いして、2日目はフリーです。」


文化祭実行委員はテキパキと係を割り振る。


「ちょっと待った!落武者と言うのが気に入らんぞ!!」


又四郎が異議を申し立てる。


が、クラスの喧騒に掻き消されて行った。



「何故わしが戦に負けて死んで、怨み辛みを撒き散らす女々しい亡霊の役なんぞをやらねばならぬのか・・・。」


ぶつぶつ一人で呟いている又四郎の肩を、平賀が叩く。

右手の親指を立てていた。


瀬戸は黒髪ロングが災いしたとしか言い様がない。
その沈痛な背中は、声に出さないまでも、無言の抗議が滲み出ていた。



だがしかし、平賀の特殊メイクが施されるこの二人は、これから語り継がれる事になる
【織田高文化祭伝説〜お化け屋敷に現れた本物の幽霊〜】
として、織田高の歴史に刻まれる事になろうとは、未だ知らなかった。



こうして文化祭に向けて、ますます加速していく。

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