この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
うぎゃああああっ!!!
廊下まで叫び声が響く。
そのクラスはお化け屋敷。
【絶対に入っては行けないクラスルーム】と、
おどろおどろしい文字が浮かんでいる。
午前は又四郎と、瀬戸未来が一緒に受付当番をして、午後は驚かせる役に回る。
「まさか、お主たちが出来てしまうとはな・・・。正直驚いたぞ。」
平賀と瀬戸は初々しいカップルのセオリー通り、照れていた。
又四郎の見舞いや、剣道部の件や、今回の殺陣の練習など、二人の距離は急速に接近していた。
お互いに引かれ合うものがあり、くっつくべくしてくっついたのであろう。
「それにしても平賀。わしの顔はどうなっている?」
メイク室に入ってくるクラスメートは、一様に又四郎を見て驚く。
中には泣き出す女子生徒も居るくらいだ。
「絶対に入っては行けないクラスルームだからね。とびっきり恐ろしくしているんだよ。」
「ふ〜ん。平賀は器用だな。髪結いか化粧師にでも成るつもりか?」
「うん。手に職を付けたいからね。早く一人前に成って、妹を安心させたいし、面倒も見なきゃだからね。」
おそらくは平賀のこう言う所に、瀬戸は惚れたのであろと又四郎は思った。
三白眼の切れ長の目。
痩けた頬。
高い鼻と、引き締まった口。
凶悪な人相この上ない又四郎が、メイクをされたなら、そしてこの完璧な時代錯誤感。
怨みを抱いて死んだ落武者の亡霊が、忽然と姿を現した。
平賀が前もってメイクした瀬戸。
黒髪ロングの眼鏡を外し、白い薄汚れたワンピースを着せた彼女も、完璧だった。
「よし、二人とも出来たよ。」
カーテンが開いて、二人が対面する。
・・・・・・。
イヤアァァァっ!!
ウギャアァァっ!!
二人の絶叫がこだました。
又四郎と、未来は互いに気を失いそうに成る程驚いたのだった。
「お、恐ろしい・・・。」
又四郎は青ざめていた。
「なんか、自分の腕を誉められて居るはずなのに、ちょっと複雑な気分だね・・・。」
平賀は苦笑いした。
「し、新一君・・・。やりすぎなんじゃないかな・・・。」
瀬戸未来は恐ろしい顔でうつむく。
「全然!すごく素敵だよ未来さん!!」
「ほ、本当に?」
死人の顔が照れている。
うわっ、平賀そんなに見つめると呪われるぞ!と、又四郎は思っていた。
が、そんな又四郎を見たクラスメートも腰が抜けるほど、ビックリしていた。
そして、冒頭の悲鳴に戻る。
瞬く間に、全校にお化け屋敷の噂が流れた。
お化け屋敷には客が殺到。
中には入ってみたは良いが、自分で出てこれず、スタッフが連れ出すほど、強烈な恐怖に打ちのめされる客が続出した。
つづら折りに設計されたお化け屋敷の内部は、稚拙な作り物で、恐いと言うよりは面白い作りだったが、このメインキャストが登場する事によって、油断していた分効果は絶大だった。
遙とカナは評判のお化け屋敷にやって来た。
「又四郎君達のお化け屋敷どんな感じか楽しみだね。」
カナが言う。
「ね、ねぇ・・・。やっぱりやめようよ。」
遙は気乗りがしない様子だ。
「えっ?遙もしかしてビビってる?」
「そ、そんな事無いから!」
必死で遙は取り繕う。
「大丈夫だよ〜。いくらなんでも部活仲間だし。そんなに怖くないよ。」
「だ、だよね・・・。て言うか、怖くないし!」
二人は受付を済ませて、お化け屋敷に入る。
真っ暗な室内。
不気味な音楽が流れる。
壁には作り物の腕が突き刺さっている。
墓石や、地蔵。結構丁寧に作り込んである。
「結構本格的じゃない?」
カナが遙に耳打ちする。
「う、うん・・・。やだな〜・・・。こう言うの・・・。」
ギャアアアアアッ!!
聞き覚えのある声が、響いてきた。
全力で遙とカナの方に向かって来る人影があった。
這いつくばりながら、それこそ全力で。
「お!お兄ちゃん!?」
さっきの叫び声は忠明だった。
「お、おい!二人とも、ヤバイぞ!このお化け屋敷、本物が居るぞ!!」
真っ青な忠明が、本気で狼狽する。
「えっ?ちょっと、何を言ってるの?」
すると、また声が聞こえた。
お〜い・・・。
お〜い・・・。
「カナ、何か聞こえない!?」
「え?あ、なんか聞こえる。誰か呼んでるね。」
お〜い・・・。
その声はだんだん近付いて来る。
二人は声のする方を見る。
「おい!早く、早く逃げろ!奴だ!あの落武者の亡霊が来るぞ!!」
曲がり角から、不意にぬぅっと人影が現れた。
暗くてよく分からないが、人の形をした何かだと解る。
「これ、そんなに暗がりを急いでは危ないではないか。」
頭に矢を刺し、ザンバラ髪で、口から血が滲む青黒い顔の武者姿が、忽然と姿を現した。
『ぎぃやぁぁぁ!!で、出たぁっ!!!』
遙とカナは全力で叫び、逃げ出した。
「あああっ!ま、待ってくれぇ〜遙!置いていかないでくれ〜!!」
遙には、忠明の弱々しい声が、遠く背中の方で聞こえた。
忠明は、這いながら遙達を追った。
落武者は、諦めたのか追って来ない。
途中、発泡スチロールで作られた井戸に辿り着いた。
「何なんだよ・・・。怖すぎるぞ、ここ・・・。」
「あの〜、大丈夫ですか?」
井戸から声が聞こえた。
「あ、大丈夫、大丈夫。ちょっとビックリしただけだか・・・。」
忠明は固まった。
眼前に、黒髪で顔を覆った女が、真っ白い手を差し伸べていた。
「おおおおおおっ!ギャアアアアアッ!!」
忠明は、意識が遠くなるのを感じた。