この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。



文化祭1日目。



それぞれのクラスの担当が終わり、剣道場に6人が揃った。



これから明日のステージ発表の最終確認をして、本番に挑む。


「良いか!今夜は徹夜だと思え!」


又四郎が激を飛ばす。


誰も聞いていないようだ。


「くっ!何とか言ったらどうなのだ。」


剣道部員勧誘と、同好会の紹介がそもそもの動機だったはずが、今はこの6人で何かを成し遂げる事が、楽しくて仕方がなかった。


遙が皆に言う。

「さあ、殺陣の最終確認して晩御飯を食べにいこうね!」



こうして、明日の段取りを確認した6人。

くたくたになりながらも充実した気分で、いつもの定食屋に向かった。



「みんな〜学校に戻ったら何する?」


「私、お風呂入りたい。」


「あ〜汗でベタベタだしね〜。」


「ね、UNOやろうよUNO!」


「なんかそれ、凄くベタ。」


「又四郎の首に掛けてるの何?」


「ぬ?これか、これは六文船賃と言って、昔真田家では・・・。」


「あ、唐揚げも〜らい。」


「乙女、それ最後に俺が食べようとしていた奴なのに!」


「あれ〜沖田って何気にセコいね〜。」


「おい!お主らわしの話をだな・・・。」


「新一君は、これ食べて良いよ。」


「わあ〜ありがとう未来さん!」


「真田家は、いつ死んでも良いように常に六文銭を描いた・・・。」


「又四郎のチャーシュー食べちゃお。」


「くぅおら!遙殿!世の中にはやって良い事と悪い事が・・・。」


「すいませ〜ん、餃子とワカメスープ追加で。」

「乙女!まだ食べるの!」


「体調戻ったし!沖田お金持ってるし!」


「人の財布を宛にするなよ。」


「マヨネーズとは何度食べても不可解な味じゃな・・・。」


「又四郎君、マヨネーズ結構好きだよね?」


「うむ。クセになるな・・・。」




こんな、とりとめの無い会話が続き、晩御飯を食べて学校へ戻る。



女子達は校内の入浴施設へと歩いていった。


男子達は寝袋を取りに宿直室へ向かう。


宿直の用務員から、寝袋を受け取り、剣道場へ戻る。


校内には生徒が沢山残っている。
皆泊まるのだろう。



「なあ、平賀。委員長とは接吻したのか?」


不意に又四郎が平賀に聞いてきた。


平賀は動揺し、寝袋を落とした。


「その様子では、まだの様だな。」


又四郎はニヤリと笑う。

「女子の唇とは、小言を言うだけの不愉快なものだ。」

「それを黙らせる為に男は女の唇を唇で塞ぐ。」
「するとどうだ。あれだけやかましい口から、えもいわれぬ艶かしい声を漏らす。」



「ち!ちょっと又四郎君!ストップ!ストップ!」


平賀は必死で又四郎の言葉を遮る。


「なんか、それ、すっごいイヤらしいよ!
未来さんとは手も繋いでいないんだから、夢を壊すような事を言わないでくれよ!」


又四郎に抗議する。


「ほほう。平賀は割と奥手の様だな。」


「って言うか、又四郎君はその、あの、キッスをした事はあるのかい?」

「ん?キッス?ああ、接吻の事か。そんなもの在るに決まっているだろう。」


ええっ!!


平賀と沖田は同時に驚く。


「一番良かったのは、吉原の桔梗花魁。あの女は吸い付くような・・・。」


「駄目!それ以上、駄目!」

二人は必死で又四郎を止めた。



その後、女子が風呂から戻って来るまで、平賀と沖田は又四郎の江戸花魁絵巻について、話を聞くことに成った。






疲れてはいるが、寝付けない6人は、屋上に上がる事にした。



「うわっ!すっごい星が綺麗!!」



屋上には天然のプラネタリウムが拡がる。


寝そべって夜空を見上げる。


星の中に、自分が浮かんでいるような不思議な感覚が6人を包んだ。


昼間の疲れと、お腹一杯の感じと、お風呂に入ったリラックスした体が、夜空と溶け合って違う体に生まれ変わる感覚。


それが充実感なのだった。



「又四郎。明日だね。」

沖田が又四郎に囁く。


「ああ。楽しみだ。」

又四郎も囁く。




遙が不意に二人に話し掛けてきた。



「二人とも明日は頑張ってね。私も頑張るから、最高の舞台にしようね。」


又四郎と沖田は頷いた。



文化祭二日目が、始まろうとしていた。



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