この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
「ち、ちょっと緊張するんだけど・・・。」
「お、お〜乙女何を今さら言ってるの。」
「未来だって声震えてるじゃない・・・。」
「あ、当たり前でしょ!私は初心者なのよ!」
「ああっもう!大きな声出さないでよ!」
「・・・。ご、ゴメン・・・。」
「二人とも、次の次だよ。大丈夫?」
「あ、新一君!大丈夫に決まっているでしょ!」
「平賀君は、未来と違って緊張したりはしないの?」
「はははは・・・。ば、バカだなぁ〜、き、緊張なんて、す、するわけ無いじゃまいか・・・。」
「じゃ、ジャマイカ?駄目だ・・・。平賀君も駄目だ・・・。」
3人は控え室で緊張に身を震わせていた。
あれだけ練習を重ねても、緊張するのだ。
又四郎は、パントマイム研究会のステージを、食い入るように見ている。
遙と沖田は、最後の打ち合わせを袖でしていた。
「す、凄いな目の前に箱や、壁が有るようだ・・・。」
又四郎は感心して止まない。
「おい!お前達。見てみろあの大道芸。」
誰も又四郎の話を聞いていない。
「遙君。又四郎に勝った時、俺は君に告白をする。」
遙の動きがとまる。
「君は又四郎の事が好きだ。解っている。でも演出の上では、断らないルールに成っているよね。」
遙は黙って頷く。
「それでも嬉しいんだよ。演技であっても、一瞬の間だけでも、君が俺を見てくれている。その事が。」
「その刹那の時間のために、そして、初めて本気で自分をぶつけられる同級生に対して。
又四郎に出会ったお陰で、今までのつまらなかった自分の人生に別れを告げる事が出来る。」
「遙君・・・。ありがとう。」
沖田は遙に背を向けた。
「さあ、本番だ。皆楽しもう。」
遙は、沖田の目一杯の強がりと、寂しさと希望を、その背中に見た。
『それでは文化祭ステージ発表の最後は、剣道同好会による演武です。』
会場に拍手が起こる。
まずは瀬戸が始めに会場へ出る。
瀬戸を追うように、乙女と遙が続く。
花道の真ん中で、瀬戸は後ろを振り返り、忍び装束の二人を迎撃する。
模造刀のぶつかる音を、音響担当が絶妙のタイミングで合わせる。
二太刀合わせ、瀬戸はステージに向かって走る。
瀬戸がステージに上がるタイミングと同時に、今度は平賀が走って出てくる。
又四郎と沖田は、刀を口にくわえて、体操部顔負けの前転と側転で会場の両端から登場する。
ステージ下の中央で、平賀は二人の刀を受けて跳ね返す。
二人はバック転で退く。
会場は盛り上がる。
乙女が選曲したジョンコルトレーンのジャズがバックミュージックで掛かる中、縦横無尽の殺陣が繰り広げられる。
ステージ上と、ステージ下で交互に男女が入れ替わりながら殺陣を演武をする。
女子はオーソドックスな受け流しと、流れるような所作。
男子は大きな動きを中心に、躍動的な演出を魅せる。
緊張に体を硬くしていた瀬戸と平賀も、本来の動きを取り戻し、練習通りの動作が出来ている。
因みに音響担当はカナである。
カナは文化祭実行委員として、剣道同好会のステージ担当でもあった。
カナは、1部のクライマックスにコルトレーンのマイフェーバリットシングスを掛ける。
阿修羅のようなテナーサックスが咆哮する中、瀬戸と平賀がステージで背中を合わせる。
二人を囲むように四人が白刃を向ける。
観客達は息を飲む。
一人ずつ二人に斬りかかる。
斬られた忍者は、袖に捌けていく。
最後に瀬戸と平賀は、観客に頭を下げ、袖へ入る。
観客は歓声と惜しみ無い拍手を部員達に贈る。
「だ、大成功・・・。だったかな・・・。」
平賀が沖田と又四郎に聞く。
「うん。平賀君。ばっちりだったよ!」
「うむ。斬られた甲斐があったな。」
沖田と又四郎は紅潮した顔を平賀に向けて頷く。
「さあ、遙の番だよ!」
乙女が遙の肩を叩いた。
「うん。頑張る・・・。」
「遙、楽しもうね。」
瀬戸は遙を抱き締める。
「ありがとう、未来。」
拍手が止まないなか、着替えを済ませて3人がステージに出る。
又四郎と沖田は、ステージに向かう中、お互いの拳をぶつけ合う。
音楽が止まり、3人は台詞を言い始める。
剣道同好会のステージ第二部が始まった。
観客は、水を打ったように静かに成る。
「又四郎。貴様に彼女は渡さん。」
沖田は、台詞とは違う事を言い始めた。