この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
又四郎は雷撃を受けて、荒野に横たわっていた。
どれ位、時間が過ぎたのか、皆目見当が付かない。
ゆっくり目をさまし、起き上がる。
「はて、夢でも見ていたのか・・・。」
それにしても長い夢だった・・・。
忘れかけた淡い恋まで、心の奥底から引っ張り出し、見知らぬ場所で想いを伝えてしまった・・・。
「夢とは言え、は、恥ずかしい・・・。」
又四郎は顔を覆う。
「ぬああああっ!死んでしまえば良かったものを・・・。」
恥ずかしさのあまりのたうち回る。
チャリン。
「!?」
又四郎は首もとから、銭がぶつかる音を聴いた。
「おっ!?これは・・・。」
黄金色に光る五円玉が六枚、革紐で首にぶら下がっていた。
「まさか!?夢では無かったのか!?」
五円玉を外すと、稲穂の彫り物と、平成の文字がある。
「地獄の三十文銭ではないか!!」
五円玉を握りしめ、慌てて立ち上がる。
「あれ、か、体が・・・。」
明らかに幼い体のままだった。
川面に近付き、そこに映る自分を確認する。
「ぶ、ぶんかさいの着物のままではないか!?
しかも、十五のわしではないか!!」
又四郎は、腰が抜けて、ヘナヘナと川岸にへたりこんでしまった。
「つ、つまりは一度は地獄に落ちたのだな・・・。」
「そして、ハル殿の生まれ変わりの遙殿に会って、恥ずかしい事をしてしまって・・・。」
「気が付いたら又生き返ったのだが、地獄に落ちた時に若返って、そのままと言う事なのか!?」
冷静に又四郎は今までの事を振り返る。
「なっ!どういう事なんだ!これも地獄の責めなのか!?」
天を仰ぐ又四郎・・・。
生き返ったのが何処なのかも分からなかった。
「・・・。もう、さっきからうるさいなぁ〜又四郎君は!」
「!?」
又四郎は声のする方を振り返る。
そこにはなんと、市井カナが居た。
「なっ!カナ殿!?何故此処に!?」
カナは織田高校の制服を着たままだった。
どうやら川岸で気絶していたらしい。
人の声で気が付いて、意識を取り戻したら又四郎が叫んでいたのだった。
「あたたたっ・・・。
なんかぶつけたのかな・・・。
さあ、帰るよ。又四郎君。
きっと皆が心配してるからね。」
カナは何事も無かったように又四郎に言う。
「いや、か、カナ殿。帰りたいのはヤマヤマなのだが、どう言う訳か、
わし等はわしが元に居た場所に戻って来てしまったらしい・・・。」
「え?何言ってるの。後夜祭の途中だったでしょ?
又四郎君は保健室に運ばれて、遙が付き添っていたじゃない。
それにここは・・・。」
カナ絶句した。
口を開いたまま動かない・・・。
正確には余りの衝撃で動けない。
「お〜い、カナ殿?」
「又四郎君!!学校がないよ!!??
校舎も、校庭も、生徒が一人も・・・。」
カナはようやく自分が今まで居た場所ではない事に気が付いた。
何故又四郎は、時代掛かった言葉だったのか理解できた。
えっ!?ちょっと待って・・・。此処ってもしかして・・・。
結論を出すのに、勇気が必要だ。
頭が全く理解していないのだが・・・。
カナは自分が江戸時代にタイムトラベルしている事に、気が付いてしまった。
その不条理にめまいがして倒れそうに成るのを、何とか堪えた。
二人はしばし沈黙し、渾身の力を込めて叫ぶ。
『ええ〜っ!!』
夕陽は昔も今も変わらずに人々を染める。
何年過ぎようが、何年戻ろうが、それは変わらない。
数奇な運命に翻弄される又四郎。
何故か意味も解らず巻き込まれてしまったカナ。
これから二人は一体どうなってしまうのか・・・。
現代に戻れるのか、それとも激動の幕末を生きる事になるのか・・・。
しかし、それは又のお話し。
今日はこの辺で、御開き、御開き。
この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
これにて、お終い・・・。
なのか!!??
※この物語は全てフィクションです。
史実や文献など同一名称が存在しますが、事実とは異なりますのでご注意ください。
長々とご覧頂き、誠にありがとうございました。
又何処かで会える日を、お待ちして下ります。
海田 太閤